書評:『フランスの子育てが、日本よりも10倍楽な理由』

週刊東洋経済』に掲載された書評の草稿

 日本の将来に暗い翳をおとしている少子高齢化問題。その対策をどうするべきか。本書は、出生率の上昇に貢献したフランスの少子化対策をわかりやすく解説した良書である。著者自身の現地での子育て経験や、またフランス人家族へのインタビューを通して、フランスの家族政策や社会保障制度の仕組みを、具体的に知ることができて面白い。

 フランスでは子育ては人生の愉しみなのに、なぜ日本では子育てが人生の苦労になりやすいのか。本書を読むと、それはフランス人と日本人の人生観の違いというよりも、政府の制度設計の仕組みの違いに決定的に依存していることがわかる。例えば所得格差、男女間格差、長時間労働などを放置すれば、出生率が低下するのはあたりまえだと著者はいう。

 確かに日本ではこの三つの問題を政府はうまく対処できていない。例えば、フランスの男性がいかに子育てに積極的であるかが紹介されている。男親が子育てしやすいのは、長時間労働への規制が存在するなど政府や企業の対応次第であることがわかる。フランスの少子化対策をそのまま日本に移植することが可能かどうか。成功例とされるフランスも、今日の姿を一夜にして成し遂げたわけでなく、またはるか昔から続いていたわけでもない。わずか20数年前の改革を契機に今日の少子化対策に成功したことを本書は教えてくれる。

 では、日本でも同様の改革は可能だろうか? 高齢化がすすみ年金や医療などへの老人たちの既得権が強まるなかで、いかに子育てをしている若い世代に社会の資源を割り振ることができるのか。本書では、子育てをしやすい政策を設計することが、結局は家族や社会を機能させ、若い世代だけではなく、高齢者世代までも含む国民全体の福祉を向上させることを明らかにしている。

フランスの子育てが、日本よりも10倍楽な理由

フランスの子育てが、日本よりも10倍楽な理由