「インタゲ論争の終り」という大嘘


 また、インタゲ論争が終わった、という嘘がネットで流れている。そして岩田規久男先生や原田泰さんがインフレ目標をいわなくなった、とかいう嘘も流れているようだ*1


 さてバーナンキFRBインフレ目標を検討していることは書いたhttp://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20090222#p1。このエントリーでリンクしてあるFRBの協議内容をみればインフレ目標の検討が行われていることがわかるだろう。


 クルーグマンはアメリカ経済を日本とは異なる可能性で考えているかもしれないこと、さらにたとえそうでなくても別にインフレ目標を政策手段として放棄しているわけでないこともこことこのhicksianさんの整理http://d.hatena.ne.jp/Hicksian/20090305#p1をみればわかる。

(追記)というか嘘の勧進元をみたら、なんとクルーグマンの英語文を間違えてとってるみたいじゃないか! 呆れた。


 さて次に原田泰さんだが、最近著『世界経済同時危機』の以下のようにインフレ目標を導入すべきであることが書かれている。


 「これほど多くの人が実質と名目を混同するのなら、日本のインフレ率も世界の標準に合わせることが望ましい。日本のインフレ率を世界標準の2-3%にすれば、日本の名目長期金利は世界標準の4-5%まで上昇する(短期金利も2-3%になるだろう)。人々は、その金利収入を使うだろう。実質の貯蓄残高はインフレによって目減りしているが、それはわずかである。物価上昇率が2%なら、20年間で3分の1目減りするにすぎない。日本の高齢者は、死亡したとき、平均で消費需要の25.8年分の遺産を残しているという。それが多少目減りしても何の問題もないだろう。」


 次は岩田規久男先生も昨年の終りに出た『景気ってなんだろう』でもインフレ目標の導入をすべきであると主張していますし、また新刊の『金融危機の経済学』では、インフレ目標政策を導入した国が、90年代以降、物価上昇率の低位安定と高い経済成長に寄与したこと、さらに「しかし、将来の物価上昇率が1〜3%程度にとどまると予想される状況で、資産価格が高騰したからといって、バブル退治で金融を引き締めれば、かえって、資産価格の暴落による金融危機と激しい景気後退を招く可能性は小さくありません」とした上で、インフレ目標と、資産価格バブルを防ぐ貸付基準などの規制政策を提起しています(岩田先生の日本のバブル形成、崩壊時からの一貫した立場です)。


 ついでなので政策にもかなり影響をもつと思われる高橋洋一氏もインフレ目標を設定することに積極的である。今日のエントリーで紹介した論説「給料半減時代の経済学」でも書かれている。疑いをもたれるならばFRBのホームページの確認をした上で、上記二冊とあわせて本屋に行って読んできてほしい 笑


 さらに日本の政策当事者、つまり政治家はどうでしょうか? 日本の政治家の人たちの少なからぬ人たちがインフレ目標の導入や、リフレーション(デフレ脱却)を必要と考えていること、そういった主張の経済学者やエコノミストの意見を聞こうとしていることは、例えば民主党内でも動きが顕在化しつつあることはこのブログでもお伝えしたことです。自民党でも小池氏グループや、あるいは政府紙幣懇談会の面々のインフレ目標の理解は高いと思われる。


 まあ、とりあえずあまりに当たりまえなのですが、ネット用に書いておきましょう。

 ちなみにどうもネットでは「リフレ=インタゲ」という阿呆な図式ですが、これもすでにここ(最近書いたのではなく何年も前から!)で書いたように、ひとつの有力なオプションにしかすぎず、いまの深刻な状況のもとでは、やれるものは矛盾しないかぎりなんでもやる必要があるでしょう。日本単独の不況のとき以上の積極性が求められるのです。


 これよんでも「インタゲ論争の終り」とか信じたいなら、それはカルトと同じなのでもう僕にはどうしようもない。例えばFRBの公式文書でのインタゲ導入の議論をみても、また岩田先生や原田さんたちの実際の引用をみても、「どっちが本当なんだろう」と思うならば、もう何も僕からはすることはできない。

*1:僕がいちいちこの嘘をチェックしていると誤解されているが 笑 そんな暇はない。はてなの機能のリンク元で何かこの種のペテンが起きるたびに、そのペテンの勧進元からかなりの人たちのアクセスがくるのでバカでも気がつくw はてなを知らないか日記の機能をつかわないから理解できないのだろう。ちなみに嘘つきを相手にしても「議論」はできない。誤解と嘘は大違いで、誤解は議論でただすことが可能だが、嘘は嘘であることを指摘しておけば十分