イチロー・カワチ他『健康格差と正義』

 現代経済思想研究会http://econthought.net/のおススメ本だったので購入。去年だったか、モリタク先生が朝日新聞で僕らの『構造改革論の誤解』ほか何冊かの本を格差問題関連で取り上げてくれたときに、イチロー・カワチ氏の本が入っていたので興味を持ってはいた。

 この本の趣旨は、「経済格差が健康格差を生み出す。だから平等の原理からその経済格差を解消することが健康格差を縮小することに貢献する」というテーゼである。

 彼らは「基礎的な所得と教育に加えて、貧しい人々にあらゆる標準的な公衆衛生・医療サービスへのアクセスを提供している社会においてさえ、健康格差は根強く存在している」と指摘している。

 その上で健康格差を縮小するための社会政策として、幼児期への早期介入、低所得層への栄養改善、労働市場の改善(単調な低コントロールな仕事の改善、レジ係など新たな技能の取得がほとんどない仕事の改善など)、所得再分配が、健康格差の改善に貢献するとしている。

 イチローたちの見解に対して、本書の後半は、経済格差が健康格差を生んでいるようにみえるのは実はみせかけで、昔からよくある絶対的な貧困こそが健康問題で重要であり、その解決には貧困層が医療に直接アクセスできるような対処こそが求められる、という反論がでてくる。僕はカワチらがあげた諸政策も重要ではあるが、健康問題については反論している論者たちの方が説得的なように思えた。健康問題の核心は格差ではなく貧困である、というものである。

 経済学界のイチローの主張の成否はともあれ、興味深く読めた一書である。

健康格差と正義―公衆衛生に挑むロールズ哲学

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