アメリカからみたら日本の物価ってインチキすぎ


 というのが趣旨にしか読めない論文です。知人が今朝方メールで教えてくれた論説です。いま猛烈に眠いのでリンク先だけご紹介。


http://digitalcommons.libraries.columbia.edu/japan_wps/247/

(追記)

正確にいえば、問題あるCPIを前提にして金融政策やってる日銀っておかしすぎ! というのが本来の意図だと思います。以下は、finalventさん、Baatarismさんからのリクエストも頂きましたので、要点を書いてみます。


消費者物価指数(CPI)は、ある基準時点を100としたとき、比較時点で消費者が買う財・サービスの価格がどの水準にあるかを示す指標。類似の概念にはGDPデフレータや企業物価指数などがあります。


 このCPIには「上方バイアス」が恒常的に存在していることが知られています(直感的ないいかただとインフレ気味に出るということ)。しかし日銀はこのバイアスが日本では深刻なものではない、と断言して、当時のCPIの水準(取りあえずプラス)を前提にして昨年の量的緩和解除、ゼロ金利解除を行ったことは記憶に新しいです。そのあとのバイアスの一部を修正した新指標では、ゼロ金利解除時点でデフレが継続していたことが後に判明(=一部ではすでに指摘されていたことですが)していわゆるCPI改定ショックでマーケットがマイナスのショックをこうむったこともありましたね。


当時の日銀の公式声明は以下のようなものでした。


http://www.boj.or.jp/type/release/zuiji_new/k060309b.htm


「「物価の安定」とは、概念的には、計測誤差(バイアス)のない物価指数でみて変化率がゼロ%の状態である。現状、わが国の消費者物価指数のバイアスは大きくないとみられる。物価下落と景気悪化の悪循環の可能性がある場合には、それを考慮する程度に応じて、若干の物価上昇を許容したとしても、金融政策運営において「物価の安定」と理解する範囲内にあると考えられる。」


 しかし、ワインシュタインらは、ボスキンレポートの経験から米国のCPIにはふたつの主要なバイアス(代替効果バイアス、品質調整バイアス)が存在することを指摘し、米国の統計手法を日本にあてはめれば同様のバイアスが日本でも顕著にみられること。簡単にいうと日銀が金利上げ政策のベースにしていて、いまもしているCPIは表向きはインフレでも実際には(日本政府の公式発表とは大幅に異なり)過去は水準で倍以上のデフレであり、また現状でもデフレ状態であることを示唆しています。そしてこのバイアスを無視した日本の金利上げ政策がデフレ圧力をもたらす懸念を表明しています。


 代替効果バイアスと品質調整バイアスとは何かですが(この点について新書レベルでわかりやすくかかれているのは門倉貴史さんの会心の一作『統計数字を疑う』(光文社新書)がありますのでぜひ参照ください)、それを直感的に説明すると。


 代替効果バイアスは、いまオレンジとりんごの二財で考えて、りんごの価格が(オレンジの価格はそのままで)上昇すれば、りんごの需要量が減少し、他方でオレンジの需要量は増加すると予想される。このとき購入量を両者一定としたまま、物価の変化だけを算定するやり方(ラスパイレス型物価指数)だと、消費者の購入量の変化が考慮されないことで、実際の物価よりもこの算出方法だと高いものになってしまう(上方バイアスの存在)。日本はこのバイアスを調整していない。


 品質調整バイアスは、例えばパソコンなど品質の向上著しい製品は価格が同じでも実際には見かけ以上に価格が低下していると考えられる。この品質調整を施さないと、やはり物価指数には上方へのぶれがでてしまう。米国では広汎な製品にこのバイアスての対応(ヘドニックアプローチ)が行われているが、日本はコンピュータなど限定的なもの。


 このバイアスを調整すると、先にも書いたように99年以降のデフレは日本政府の公式発表の倍の水準1.2%のデフレであったことが判明した。


 しかもこのワインシュタインらの論文の辛らつなところは、統計局の物価指数の説明があまりにも玉虫色で矛盾する記述が大杉栄(国民みないでどこか別な方みてんじゃねえの)とか、農業関係データ大杉栄、統計調査官が専門的教育受けてないし人数少なすぎるしおまけに日本の専門教育ってぜんぜん博士号とか重視してない頓珍漢だし、統計手法の試行錯誤もしなさすぎ、ともう辛らつなコメントオンパレード。これってクルーグマンバーナンキ以来の黒船襲来級。


 でも、ここではっきり書かないといけないけれども、ボスキンレポートの問題提起をうけて、日本では掲示板レベル(銅鑼衣紋)から『まずデフレを止めよ』(日本経済新聞社)といった当時の論争書でも、上方バイアスの存在はしつこいほど強調されていた。あと上の門倉本でもしっかり指摘されてた(原論文でたのはゼロ金利解除前だ)。しかし、日銀とそのシンパをなすエコノミストはこの種のバイアス論争を枝葉末節だと切り捨てていたのだ(これ僕の知ってる日銀よりぽいエコノミストもはき捨てるようにこの上方バイアスの論点自体を非難してたよ)。しかし0.25%の金利上げを行う世界で、1%に近い物価のバイアスがなんで「枝葉末節」なのか、いまだに理解に苦しむ。ましてや、日銀にはワインシュタインらに比べれば穏便だけれども(笑)、白塚氏の業績だってあったのに。つまり上の当時の総裁の認識も含めて、日銀の政策がゼロ金利という「拘束」から自由になることだけが目的化してたんじゃないだろうか。そして慎重な声を圧殺する「空気」だけが、あのときの日銀を通じてリークやらマスコミ操作やらしてたんじゃないのか(いや、そうなんだよね、もう書いちゃうけどw 当時のゼロ金利解除のマスコミ操作がうまくいったと酒の席で、まさか僕の知り合いがいるとは知らずに自慢していた厨銀のおじさんもいた*1)。


 さて話をワインシュタインの論文に戻すと、なんと彼らの計測だと、いままで日本でいわれていた銅鑼衣紋推計1%、門倉推計年平均1.3%を大幅に上回る1.8%にも上ることが指摘されている。経済のさまざまな制度的な側面や人間関係のもつ信頼・社会関係資本だとか、あとデフレに陥らない糊しろをまるごと捨て去った経済を前提にして、ゼロ%で「物価安定」を目指すとすると、日銀の採用しているCPIだと1.8%にならないと本当の「物価安定」にならないことになる。そして制度的な側面や生の人間の活動を加味したときに円滑に経済がまわるとおもわれ、さらにデフレに陥らない糊しろを含めた1%以上を目指すならば、なんと3%近いインフレが必要になってくるわけだ。


 そして明日の財務省の借金時計のエントリーで書く予定だけど、事実上のデフレを継続しているから日本の借金はどんどん嵩んでいくんだ、とワインシュタインらは厳しく日本の統計の不備とそれがもたらす(あるいは便乗している)日銀や政府の政策姿勢を厳しく糾弾しているのである。


 技術的細部をここでやってもいまの段階ではしょうがないので、これぐらいでいいでしょうかね。


 それとハリセルのエントリー参考汁 http://d.hatena.ne.jp/koiti_yano/20070730


統計数字を疑う なぜ実感とズレるのか? (光文社新書)

統計数字を疑う なぜ実感とズレるのか? (光文社新書)

*1:もちろん書かないけどちゃんとそれが可能な役職のおじさんだ