橘木俊詔 『格差社会』

 読んだ気になってた読んでない本の代表格。さすがに経済論壇の第一人者グループに所属するだけあってうまい。煽りもw


格差社会―何が問題なのか (岩波新書)

格差社会―何が問題なのか (岩波新書)


 本書の結論は著者も整理されているように、(1)格差拡大は進行中、貧困者増大中 (2)日本では経済効率を犠牲にせず、機会と結果の双方において格差是正策を採用可能、(3)格差是正の基本は教育、社会保障、雇用の分野にあり


とのことです。(1)については著者も内閣府昨年1月見解(事実上の大竹文雄さんの観点と同じかな?)に基本的に理解をしめした上で、高齢者の貧困者増、フリーターやニートの増加による若年者の貧困者増を警戒し、なおかつ相続税所得税による富裕層の優遇からくる格差の進展を著者は説いています。

 
 高齢者の貧困の増加の可能性については確かに今後要注意する必要があるでしょう。また景気の安定が続けば、ニート問題の多くの部分やフリーター市場の待遇改善+正規雇用への転換増もあると私は思っていますので著者とは異なる見方にあるといえます。もっとも「景気の安定」の像が著者とリフレ的見解とは見事にずれているでしょうからここでも論議のポイントがあるでしょう。


 (2)についてはこれは(3)ともからむのですが、著者の年来の主張のように構造的なデフレなので、金融政策中心の成長戦略(もっとも「戦略」という表現は嫌いなんですが)を選択肢から排除されていますが、もしこの排除された選択肢をとるならば、(3)にあげた政策を援用しなくとも(2)のような事態が実現できるでしょう。


 (2)での私なりの反論を踏まえて、(3)のうち著者の主張で注目したのは、やはり公教育費の削減でしょう。これは最近の『ダイヤモンド』での大竹さんたちの学力低下の経済学的分析で指摘されていた、(1)都心部での学力低下は質の高い女性教員を確保できなくなった、(2)地方は教員が質の高い女性労働者をひきつける働き場である、ことを前提に考えてみると、都市・地方あわせて教員の給料をさげていく政策は避けるべきでしょう。このことは公務員の給与抑制・引き下げだとか地方公務員も民間並に、とか脊髄反射的な天下り絶対禁止だとかに、僕が大きくためらう理由とも関係してますがこれはまた別に書かないといけないでしょうね。


 雇用、社会保障については、著者には構造的だと信じられている多くの部分が、マクロ経済政策で対応可能ですので、著者の提起しているいくつかの政策(ワークシェアリング、職務給制度、最低賃金制度、職業教育の拡充など)は本当に政策目的に対応した手段なのか考慮する必要があるでしょう。…と書くことが()内の政策を理由を問わず完全否定していると即断するあなたは正月早々御屠蘇の飲みすぎです 年為


 著者のバランスにも配慮した書き方は、確かに著者の意図したとおりにこの経済格差問題の論争のいい下敷きになるでしょう。