日本のバランスシート、ワインシュタイン、財政問題

 日本の統合政府のバランスシート問題については、高橋洋一さんがわかりやすい展望を21世紀の初めから一貫して書かれてきた。29日付けのデビット・ワインシュタイン氏の日本経済新聞「経済教室:コロンビア大学教授デビッド・ワインシュタイン氏――財政問題、成長で解決可能、円安、近く輸出に着火」について、高橋さんからメールで送られてきた異論を拝読して、ワインシュタイン氏の論説が不十分であることを知る。以下は自分用のメモ。

 ワインシュタイン論説の主に政府のバランスシートに関わる発言は以下。

資金循環統計によれば、日本の政府債務残高はグロス(総額)でみると1177兆円で、国内総生産(GDP)の約243%に相当する。だがこの数字は、問題の実態を理解するうえでは、2つの理由から適切ではない。
 第一に、日本の政府部門は既発債の相当量を保有しているため、債務が二重にカウントされている。企業を評価する際には資産総額から債務を差し引いた純資産をみるように、政府も債務総額から資産を差し引いた純債務こそが、現在の財政状態を表す経済的に意味のある数字といえる。
 第二に、企業の連結決算には子会社が含まれるように、政府の連結決算にも、公的企業の資産と債務を含めるべきである。筆者が日本政府のバランスシートを連結ベースで作成したところ、今年6月時点では純債務はGDP比132%だった。
 しかもこの数字も、日本の問題を実態以上に深刻にみせている。アベノミクスの第1の矢は金融政策に重点が置かれていた。日銀の黒田東彦総裁がこれを見事に実行した結果、現在日銀は既発債の相当量を保有している。日銀は原理的には国債を永久に保有できるので、政府はその償還に頭を悩ます必要はない。日銀を政府のバランスシートに含めた場合、今年6月時点の純債務はGDP比80%となり、グロスの3分の1になる。

これを修正するには、まず財務省のホームページにある平成24年度「連結財務書類」の貸借対照表の概要を参照http://www.mof.go.jp/budget/report/public_finance_fact_sheet/fy2012/20140328_01.html

平成25年3月末で447兆円の純債務(前年末より約6兆円増)。ワインシュタインは試算した日時が少しずれるが、2013年の日本の名目GDPは480兆円なので、約93%。ワインシュタインの132%よりはかなり低い。

さらに統合政府である日本銀行国債保有額をみてみると、日銀保有分の国債は資金循環統計2014年9月末233兆円(22%強)、営業毎旬報告(12月20日)だと254兆円(質問者2さんの指摘による)。
http://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/acmai/release/2014/ac141220
http://www.boj.or.jp/statistics/sj/sjexp.pdf

政府の連結数字と時期が違うが、仮に2014年12月まで政府連結の純債務が447兆円から5兆円ほど増えたとすれば452兆の純債務。ここからワインシュタインと同じ考えで、政府保有国債を単純に引き算すると、統合政府(政府&政府関連機関&日銀)の純債務は198兆円。GDP比は41%になる。ワインシュタインの80%のほぼ半分。

 単純化されたバランスシートの見地からみれば、日本の財政問題は深刻なレベルとは程遠い。実際に国債金利がきわめて低く安定的なのは、ワインシュタインが指摘しているように、日本政府は債務不履行しない、きわめて高いインフレに依存しない(政府が目標とする2%のインフレ目標は国際的に高い方ではない。むしろ最低限なのか否かが議論されている段階。日本のインフレ率への認識は何周も遅れてるレベル)、ということが明らかなため。

 ワインシュタインらの日本の財政赤字問題についての論説は以下にも収録

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 高橋洋一さんのバランスシート論は最初のが本格的、後者のが一般向け

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