アベノミクスを語る最小限の経済本ブックガイド

 というテーマです。基準は単純。しっかりとしたロジックと事実との照合、そしてわかりやすさです。単にわかりやすいだけではなく知的刺激を得て、次のステップへいける本を選びました。

 まずアベノミクス本三本の矢は以下の三冊

片岡剛士『アベノミクスのゆくえ』
若田部昌澄『解剖 アベノミクス
高橋洋一『こうすれば日本は物凄い経済大国になる』

解剖 アベノミクス

解剖 アベノミクス

 この三冊だけで総論は完璧でしょう。個別のテーマとしては、
金融緩和については、岩田規久男『リフレは正しい』
財政政策については、岩田規久男浜田宏一・原田泰『リフレが日本経済を復活させる』の飯田泰之論文と上記の三本の矢のそれぞれの本の解説がベスト。
成長戦略については、まともな論客の主張は首尾一貫、この成長戦略については否定的です。しかし関連するものとして、特にTPPについて、原田泰他の『TPPでさらに強くなる日本』がいい。反対論客については、そんなに読みたければ最寄の書店にいけば腐るほどあるので紹介はしません。ただほとんど反論のための反論でやたら戦線が拡大していて素人だましなものが大半です。松尾匡他『TPPと日米関係』がただひとつ息を吐いている状況でしょうか。

リフレは正しい アベノミクスで復活する日本経済

リフレは正しい アベノミクスで復活する日本経済

TPPでさらに強くなる日本

TPPでさらに強くなる日本

TPPと日米関係

TPPと日米関係

内閣府参与として安倍首相に経済政策のアドバイスを与える浜田宏一先生の最新の見解を、片岡剛士さんとともに語ったのが以下の本。他にもアベノミクスを理解する歴史・思想・政策などの読みやすい論文が満載。必要最小限の反リフレ的言説も大御所(西部邁、榊原英介、ボワイエ)をそろえてます。

『経済再生は可能か』(環)

またアベノミクスの核心であるリフレーション理論の日本への受容の歴史は、以下の山形浩生さんの論説が読み応え十分です。特に構造改革主義と、それに批判的な左派的な物言いが、実はマクロ経済への認識の欠落(誤解)により、同じ主張をいうことに至ってしまうという「逆説」は実に興味深い。

atプラス16

atプラス16

 応用編(ほぼプロ級)としては上にもあげた以下の本がベストです。知的刺激にも満ちています。

岩田規久男浜田宏一・原田泰『リフレが日本経済を復活させる』

 そしてデフレ・カルチャーの終焉を描いた僕の本もぜひ一読ください。

日本経済復活が引き起こすAKB48の終焉

日本経済復活が引き起こすAKB48の終焉

 以上、10冊を読めばそれだけでかなりの経済通になれます。官僚やメディアがいう「政策通」ではなく、本当の経済通です(笑。

 

高橋洋一『こうすれば日本はもの凄い経済大国になる』

 アベノミクス「三本の矢」は事実上、「1.5本の矢」にしかすぎない。大胆な金融緩和こそがアベノミクスの中心であり、また現在の日本経済の期待が向かう先をコントロールしているものである。本書のメッセージはほぼこれに集約される。そして0.5本と評価された財政政策は、官僚的な利権の巣になることでその機能を十分に発揮できない可能性があることが指摘されている。もちろん費用便益分析を適用することでその経済合理性をみたせば公共事業を粛々とすすめるべきだと、高橋さんも主張する。しかし実態あ官僚たちのお手盛りが依然として続く。

 本書には現在、目にすることができるアベノミクス、というよりも上記した日銀のリフレ政策への反論・疑問について簡潔な答えが列挙されている。さすがにこなれていて、これは討論の場で使う人(僕だがw)からみれば、まさにありがたい書籍といえよう。

 また後半は、日銀史観と日銀理論、それと格闘してきた岩田規久男日銀副総裁の歩みが描かれていて、ここまで来る道程の長さにためいきがでてしまうほどだ。官僚たちの壁は実に分厚いのだな、実感する。

 日本の経済政策の基礎を、実践的な観点から読み解くことができる一冊。類書は多いが、実際にアベノミクスの核を知りぬく人に書いた入門書として広くすすめたい。

上念司『異次元緩和の先にあるとてつもない日本』

 上念さんの新作です。先の著作(「アベノミクス亡国論」のウソ )がトンデモ経済論を斬新な切り口で批判したもので大変面白かったです。今回の著作は、デフレ脱却過程とその後の日本経済と世界経済を扱ったものになっています。前半の日本の金融緩和の分析をした部分は、旧日銀的な思想がまだメディアや一般にもある中では必読ですね。雇用についての部分はバブル期の雇用状況などを参照にして、これからリフレが実現していく中でどのように日本経済と社会が変化していくか、その方向性を予見していて興味深いです。

 どちらかというと今回は右派論客としての色彩が強いですね。特に韓国・中国経済を扱った部分はその色彩が強くでていて、僕は賛同できない部分もあります。ただしリフレ政策が間接的に韓国経済と中国経済にかなりの影響を与えるのは自明で、それについての一見解を与えてくれるでしょう。

異次元緩和の先にあるとてつもない日本

異次元緩和の先にあるとてつもない日本

ブラード・セントルイス連銀総裁のFOMC「出口戦略」をめぐる声明への異論

 ブラード・セントルイス連銀総裁が、FOMCの出口戦略をめぐる声明やバーナンキ総裁の発言について異論を表明している。
 http://www.stlouisfed.org/newsroom/displayNews.cfm?article=1829

 要旨は、状況読んで判断すべきで、中銀の政策はカレンダーで決められた通りに進めるべきじゃない、とのこと。特に冒頭はインタゲの目標枠から外れるデフレリスクについて警鐘している。

 このブラード発言を補強する講演資料は以下に。

http://research.stlouisfed.org/econ/bullard/pdf/BullardMontreal10June2013Final.pdf
 内容のポイントは、1)コアインフレ率が下振れリスクあり、2)失業率は下降していて6.5%も予想可能、3)インフレ率が低いので積極的な資産購入の継続可能、4)リスクテイクな活動も限定的である。規制改革の効果(ドット・フランク法)の効果を、ブラードは高評価していて、それが現在、過度にリスクテイクな金融活動がみられない原因のひとつとしている。

 ドット・フランク法の学生向けの概説は、バーナンキの『連邦準備制度金融危機』を参照のこと。わかりやすく解説されてる。

連邦準備制度と金融危機―バーナンキFRB理事会議長による大学生向け講義録

連邦準備制度と金融危機―バーナンキFRB理事会議長による大学生向け講義録

 

三浦小太郎『収容所での覚醒 民主主義の堕落』

 最近、嵌って読んだのが、下のエントリーにも書いた渡邊十絲子『今を生きるための現代詩』とこの三浦さんの著作である。一回、討論番組で同席したのがきっかけで、いつか著作を読んでみたいと思っていた。厳しい環境(監視国家、民族淘汰、テロリズム、戦争など)における人間の「自由」と「生存(権)」の意義を問うことが本書の一貫としたテーマだと思う。

 多くは書評や読書メモ、あるいは他者の言説と行動の分析という手法で書かれているが、どれも実に読み応えがある。最初の著作『嘘の人権 偽の平和』も読んだが、本書の方が数段、著作としての進展を感じた。本書のソルジェニツインについての考察を読みながら、僕は20世紀の独裁者の評伝を次々に訳している山形浩生さん、ソルジェニツーツイン論を起点に評論活動を始めた東浩紀氏らの試みをクロスさせて読んでみたい誘惑にかられた。これらの論者同様に、現代の世界をみる視座を本書は提供してくれるだろう。

収容所での覚醒 民主主義の堕落

収容所での覚醒 民主主義の堕落

嘘の人権 偽の平和

嘘の人権 偽の平和

渡邊十絲子『今を生きるための現代詩』

 最近、最も刺激を受けた本のひとつ。特に第二章の黒田喜夫、第4章の川田絢音の詩と自身の体験を扱った章はすばらしい。ただ最後の井坂洋子の詩を扱ったところで大きく減速。

 詩はいまだ体験しえない時間を先取りしてあるときは実感させてもくれるし、またほとんどはずっと中途半端な答えのまま、読者の中でずるずる残り続ける。

 「しかし、だれにでも通じることばは、深みというものをもたない。「通じる」度合いが高ければ高いほど、そのことばは記号化し、符牒のようなものになっていく。詩のことばは、そうしたことばの対極にある、孤独のためのことばだ。安易に通じてしまってはいけない。詩のことばは、母語でありつつ異国的なことばである。詩が難解であるとしたら、それは必然なのだ」

 生きていくこと、その中で詩を読むことは、作者の言葉を借りれば、「高次元」のなにかを「予告編」としてみることだと納得するところが多い。

 本書は本当にいい本なのだが、ところどころに散見される「効率性」についての考察がうすっぺらいように思える。そこだけがとてもつまらない。

 なんで人は、効率性や自己責任(単一の自我)やらを批判するときに、かくも凡庸になってしまうのだろうか? その批判する人が感受性や共感性をもてばもつほどその批判の調子自体が、画一的なもの、よく見かけるもの、無個性なものに還元されてしまうのか。例えば効率性の単一ならざる面を忘却するなど。このことは村上春樹のカタルーニヤでの講演でも感じたことだ(関連するリンク先)。

文化放送、くにまるジャパンに出演しました(6月17日)

 今週の月曜日は、くにまるジャパンで拙著『日本経済復活が引き起こすAKB48の終焉』の話題を中心にお話ししました。

番組HP http://www.joqr.co.jp/japan/2013/06/akb.html

日本経済復活が引き起こすAKB48の終焉

日本経済復活が引き起こすAKB48の終焉

バーナンキFRB議長の日銀の金融政策と最近の国債市場・株式市場のボラティリティについての見解

 6月19日の政策決定の後の記者会見で、日経の記者とバーナンキ議長のやりとり。日本の金融政策と国債市場などの最近のボラティリティについての、議長の見解を質す内容。

http://www.federalreserve.gov/mediacenter/files/FOMCpresconf20130619.pdf (これの後半)

 日経の記者が最近の市場の乱高下は、1)米国の金融政策の不安定性によるものか。2)日本の金融政策への信頼性に欠けるという見方があるが、議長はどう思うか? というもの。

 これに対してバーナンキは、市場のボラテリティは日銀の政策に論理的にみて関係している。しかしそれは信頼性に欠けるというのではない。実に長い間、デフレが続いてしまっているために、日銀のインフレ目標2%実現をするという努力が、まだ市場参加者に十分に理解されてないためにおこるかく乱である、いまの日銀の努力の方向性と「三本の矢」を支持しているし、そのかく乱もやがてこの努力が結実する中で解消されるだろう、というのがバーナンキの意見である。

関連する部分を抜いておいた。

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