円安トレンドは韓国経済に何をもたらすのか?

 現在、1ドル87円台である。日本銀行の政策転換もなく単なる安倍首相の決意表明によって市場が刺激され緩やかなペースで円安は進行している(もちろんその動きは基本的に不安定だと理解した方がいい。日本銀行はいまだ何の協調も行っていないからだ)。米国、欧州、アジア各国の金融政策の動向などにも依存するのはいうまでもない。

 しかし仮にこのまま円安傾向が続くことを想定しよう。例えば一部の製品について、輸出の面で競争的な関係の強い韓国への円安トレンドの影響を簡単に考えてみよう。

 日本の円安が続けば、韓国の経済政策は明示的なウォン安支持政策なので、円安に対抗して金融緩和を行うことも十分考えられる。つまり日本と韓国との通貨安競争の発生可能性がある。もし韓国がそのような通貨安競争にうってでたらどうなるだろうか?(ちなみに円との通貨安競争にでてこない可能性もある)。

 現状で、日本はデフレであり、かつ不況だ。他方で韓国はすでに1.4%のインフレ率(ここを参照)、また韓国の失業率は、完全雇用の水準に近い2%台後半だ。仮に韓国が日本の円安に対抗して金融緩和を行えば、いまの韓国の失業率の水準からいって、インフレが加速化し、他方で雇用状況はさほどかわらない、という状況が現出してしまうだろう。これは韓国経済にとってインフレ下の不況を激化する賢明ではない方向になる可能性が大きい。いまのインフレ率と失業率の組み合わせでみても韓国のウォン安を意識した金融緩和の余地はかなり限定されていると考えていい。

 日本の製造業で、韓国と輸出競争関係にある企業は、リーマンショック以降、長い間、競争上の不利をかこっていた。当たり前だ、ドルベースでみるとリーマンショック前は1ドル110円台だったのが、70円台前半までいったのだから40%以上の増価である。これは日本の輸出産業を過度に不利な状況におとしいれ、他方で韓国はウォン安の利益を享受した。それがサムスンなどの「最強」伝説さえ生んでしまい、日本企業の零落をまねいた元凶だ。

 もし韓国の金融政策拡大の余地が限られていて、また日本がデフレ不況であることを逆手にとり、今後も円安トレンドを維持するスタンスをみせるならば、過度の円高過度のウォン安(ちなみに韓国が通貨安競争にのってこない可能性は十分考えられる)が是正され、まさに本当の意味での日本と韓国との企業の「国際競争」が始まるだろう。

 それは日本にとってはもちろん海外の消費者や、また韓国自体にとっても中長期的に利益になることだろう。

 ちなみにケインズ的な設定(変動為替制度の下での不完全雇用と金融政策)での通貨安競争の理論的考察については、別項で考察する。また韓国の失業率や雇用状況についても別途考察する(ちなみに韓国の真の失業率が高くても上記の議論にはほとんど関係ない。なぜなら真の失業率が高い原因は構造的な要因だからだ)。

財政政策ならば防衛支出を増やす方が望ましいのではないか?(田中秀臣、飯田泰之、原田泰諸氏の主張再考)

 現状のデフレ脱却については日本銀行の政策転換という金融政策の在り方を変えることがデフレ脱却の必要条件と考えている。
しかし財政政策をあえて積極的に行うならば、それは公共事業の景気拡大効果という「神話」にすがるべきではない。もちろん社会的に必要なインフラ整備は行う、復興事業に必要なものは行う、更新投資も必要なものはすればいいだろう。しかし政策目的が、デフレ脱却ならば、その効果は効率的なもの、すなわちできるだけ社会的に無駄でないものが望ましい。その点で公共事業に依存するのは誤りだ。この政策目的と手段の割り当てが、公共事業中心主義の人にはまったく理解されていない。

 多くの間違いは、政策目的に、デフレ脱却、復興目的、災害対策、更新の必要性などが一括してあたかもひとつの目的としてくくられているからだ。その混在一体としたごちゃごちゃなんでもかんでも混ざった目的に対応するのが公共事業だ、というわけだ。まさに政策目的と手段の割り当て議論の前提を理解していない幼稚なレベルである。

 公共事業に景気拡大効果があまり望めないことは多くの実証が証明している。もし仮に土建業者の生活が苦しいのならば生活保護に手段を割り当てるべきである。

 このような本題に入る前に長々と公共事業について書いたのは、いまのネットを中心とした公共事業狂想曲的な一部の「世論」を意識している。批判的に意識しているだけだが。

 さて本題である。動画のレベルでは何度も主張しているのだが、私は財政政策をあえて行うならば、公的雇用を増やすべきだという主張をしている。ひとつには社会的に望ましい公的雇用(防衛、教育、社会保障など)が歴然として存在し、それが欧米標準でも最も低レベルだからだ。欧米と比較してだけではない。

 例えば現状の自衛隊をみると、一時的な公的雇用の典型である、任期付き自衛官がここ15年の間、猛烈に減少している。そのため自衛官の年齢構成が異例なほど高齢化してしまっているのが日本の自衛隊の現状だ。これの原因が任期付き自衛官の採用の大幅減にあったことはまず疑いない。

 日本の防衛力という社会的必要の見地からもこの自衛官の公的雇用を増やすべきだと思う。この15年近くの間に4万人近く減少しているので、それを数年で戻すだけで雇用への効果は少なからずあるはずだ。

 この点はこの動画の24分20秒以降で話しているのでぜひ聞いてほしい。
http://www.youtube.com/watch?v=vT5lSpfwMgc

 また飯田泰之さんは、同じ上の経済討論で、26分30秒以降から、公共事業の景気拡大効果がきわめて小さくなっていること、そして防衛支出の方が景気拡大効果が望めることを主張しているのでぜひ参考にしてほしい。

 さらに原田泰さんもあえて財政政策をやるならば、という限定で以下のように書いている(リンク先はここ)。

 国土は断固として守るとほとんどの政党が言っているが、どう守るかは誰も言っていなかった。その中で、太陽の党が防衛力倍増と言ったのは評価できた。南シナ海の島々を奪取することでフィリピンやベトナムには遠慮していない中国が、日本には多少遠慮しているようであるのは、日米同盟と海上自衛隊の力を認めているからだろう。自衛隊の力を高めるのは抑止力になる。

 私は、無理やり需要を作る必要があるなら、無駄な公共事業をするより、防衛費を増額した方が良いのではないかと思う。多くの支出がアメリカの防衛産業に流出するが(経常収支の黒字減らしが必要な時代ならこれも良かったが)、国内でライセンス生産できる部分も大きい。

 自衛艦や巡視船の船体ならば、ほとんどが国内の需要になる。自衛艦が外国のコンテナ船に衝突されて艦首部分がほぼ全壊した事故があったが、この程度の船体なら、どの造船所でも造れるだろう。需要喚起策としても、公共事業よりも良いではないか。なぜそうならないのだろうか。

 公共事業では全国津々浦々の建設会社に仕事が落ちるが、防衛産業では特定の企業にしか落ちない。大型船の船体を造れる企業は、ハイテク武器を造れる企業よりずっと多いが、建設会社ほどの数はない。これが、防衛支出を需要喚起に使えない理由だろう。国土は1㍉たりとも譲らないと勇ましいことを言っているわりにはどうしようもない状況があるわけだ。

ぜひ財政政策、日本の本当の防衛を考えるときにこの論点を考えてみてほしい。

道端カレンさん、拙著『デフレ不況』を書評す

 『日本建替論』に続いて道端カレンさんに書評していただきました。ありがとうございます。しかもカレンさんが経済書をレビューするときにいつも感心するのですが、並みの経済専門家よりもよほど適確に論点をまとめて、勘所を講評されているところです。本当に才色兼備なんだな、とつくづく思います。TwitterFacebookなどでご本人含めてお礼を申し述べてありますが、やはりブログの記録として留めておいたほうがいいな、と思い年末28日の話題で一週間遅れですがここであらためて書かせていただきます。

道端カレンさんのブログ

http://ameblo.jp/karen-michibata/entry-11436574412.html

デフレ不況 日本銀行の大罪

デフレ不況 日本銀行の大罪

適菜収『新編 はじめてのニーチェ』

 ニーチェの著作を読む人にふさわしい入門書のひとつ。適菜さんの翻訳『キリスト教は邪教です!』(現代語訳アンチクリスト)を読む前としてもいいし、読んだ後でもいいと思う。こんなにニーチェがわかりやすく、また現代的な意義を持ち続けているかがわかる好著&好翻訳の組み合わせになるだろう。

 特に本書はネットなどで氾濫するニーチェ俗流解釈をわかりやすく正していてその語り口調がいい。

例えば権力の意思とは何か? 従来だと「強者による力の論理」と解釈されてしまう。しかしそうではない。「権力の意志とは、世界はなぜ存在するのか?という疑問に答えるものです。権力への意志とは、認識者そのものを成り立たせている力関係のことです。人間は自分の生存に有利になるように世界を解釈する、その基盤となっているのが、正に対する保存・生長の欲望です。略 キリスト教世界もまた、権力への意志が生み出すものです。彼らは弱さや病を正当化することで、生き延びようとするのです。……つまり、パースペクティブに基づく、「見せかけの世界」こそが、私たちにとっては唯一つの世界なのです。ニーチェは「権力への意志」という考え方により、西洋における世界観を一変させました」。

例えば永遠(永劫)回帰とは? 「世界には目的はなく、世界は何度も繰り返されるという思想」「キリスト教的な直線的な時間概念の否定でもあります。永遠回帰の中では、世界の外部に「神」を設定することができなくなります。そこではあらゆる価値の根拠が消え去る。同情、ルサンチマン、復讐の精神といったキリスト教的価値からの解放が行われる……このニヒリズムの徹底が、逆に「およそ到達しうる最高の肯定の形式」に転化する。世界はただ一の虚構である。それを知った上で、大地に忠実に生きる者を、ニーチェは超人といいました。世界そのものを矛盾を含めて全肯定する」

ニーチェは、キリスト教とキリスト自身を区別したうえで、前者を猛烈に批判します。そしてキリスト教の近代版が平等主義であるとしてこれも批判します。他方で、ニーチェ自身は、キリスト教=平等主義的な仮構的制度が生み出す「格差社会」自体を批判します。そのような社会では、「弱者」への同情は、実はその同情によってその体制自体を維持する目的で生み出されたものだからです。ニーチェ自体は、オルテガの先駆のようですが、社会を強者と弱者の階層秩序となるものとして、おそらく相互のなんらかの協調(本書でいうところの公共の利益としての歯車としてのそれぞれの職分的なもの?)を考えていました。

ニーチェを現代の文脈で考えるうえでは、いま最もいい本のひとつでしょう。

新編 はじめてのニーチェ (講談社+α新書)

新編 はじめてのニーチェ (講談社+α新書)

キリスト教は邪教です! 現代語訳『アンチクリスト』 (講談社+α新書)

キリスト教は邪教です! 現代語訳『アンチクリスト』 (講談社+α新書)

AKB48、ももいろクローバーZ、ローカルアイドルの経済学、ママドルの経済学2012年での貢献

昨年も作成したので今年もまとめました。ただブログに記載しなかったものも多く以下でフォローしてないものがいくつかあるかもしれませんが。

2012年新春、K-POPを語る:西森路代氏との対談
http://real-japan.org/2012/01/01/783/

ローカルアイドルを超えて:QunQunとの対談
http://real-japan.org/2012/01/01/797/

信州ガールズアイドル?(信濃毎日新聞1月7日)にコメント
http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20120107#p4

炎を少女たちに向かって吐き散らす:ももクロChan Presents ももいろクローバーZ試練の七番勝負』DVD-BOX http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20120125#p1

アジア市場を見据える―LinQ代表小野純史氏との対話
http://real-japan.org/2012/02/15/841/

アイドル、AKB、そして日本:中森明夫氏との対談
http://real-japan.org/2012/02/23/852/

ドイツ大使公邸でAKB48のみなさんと会食すhttp://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20120305#p2

「AKBあっちゃん卒業」in Dig(TBSラジオ、3月28日の備忘録)http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20120401#p3

AKB48」ブームに見る「アイドル」と「時代」の相関性(『月刊宝島』5月号、インタビュー)http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20120401#p5

ママドルの経済学(本日発売の『FLASH』でインタビュー記事掲載
http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20120403#p1

嵐をよぶQunQun
http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20120404#p2

AKB総選挙について上毛新聞でコメント(6月4日朝刊)
http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20120604

NHK BiZプラスでAKB48総選挙についてコメント
http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20120606

本日(6月7日)のスポーツ報知でAKB総選挙についてコメント(大相撲+宝塚+演歌=永久不滅のビジネスモデル)
http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20120607

ロイター通信でAKB48総選挙について国際配信動画
https://twitter.com/hidetomitanaka/status/210471673936347136

AERA』(6月18日号)でコメント(AKBにはまる「幸福」)
http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20120611

「ご当地アイドル福岡激戦」『読売新聞』西部版7月11日夕刊でコメント
http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20120719#p1

ローカルがグローバルになる日―SKE48の経済学―(『電気と工事』から転載)
http://real-japan.org/2012/08/28/936/

本日(9月2日)の東京新聞AKB48社会現象についてコメント
http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20120902

産経新聞NMB48小論を寄稿
http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20120907#p1

今、AKB48が解散したら経済打撃はどれぐらい?
http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20120923#p2

今日から四夜連続で、NHKラジオ深夜便ないとエッセー(午後11時半)で「AKB”現象でわかる日本経済」を話します http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20120924#p1

上毛新聞一面(10月22日)で群馬のアイドルを語る
http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20121023#p1

ももクロニクル』1
http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20121107#p2

ももクロニクル1 全力少女が駆けぬけた秋冬春夏

ももクロニクル1 全力少女が駆けぬけた秋冬春夏

他に朝日名古屋、信濃毎日で確かご当地アイドルについてコメントしたんだけどブログに記載漏れ。ほかにもあったかもしれません…。

AKB48の経済学

AKB48の経済学