2012年を振り返る個人的ニュースベスト10

 来年の目的がデフレ脱却、日本銀行的なるものの打倒であることは毎年変わりません。「打倒」とか書くと大げさですが、選挙であれば徹底壊滅を目指すぐらいの心意気で10数年やってます。来年はそのいい節目になってもらわないと困りますね。

 さて今年のニューストップ10なんですが、毎年いろいろありすぎます。最初に今年の反省は単著を出さなかったことですね。しかも二年続けて。これはなまけている以外のなにものでもないので早急に解決するつもりです。ええ、必ず。

 さてでは今年のニューストップ10です(だいたい1月から12月まで時間順に並んでますので重要度では並んでません)。

1 田中秀臣&上念司『「復興増税」亡国論』(宝島社)を出しました。民主党政権の消費税増税に反対し、また震災復興をマクロ経済の見地からいかにとらえるのか、上念さんとの対談形式で、昨年出した『震災恐慌!』のリメイクですが情勢にあわせて刷新してまた読みやすくしたつもりです。いまでも同じなんですよね。この本の主張は、政府や日本銀行が原則なにもしないとどうなるか=緩やかな停滞と震災復興の遅れが生まれる、というものでした。本書の予想は民主党政権下ではそのまんまあたりましたが、それはまさに日本銀行と政府が何もしなかった、という恐るべき事実を裏付けているわけでもあります。

2 麻木久仁子&田村秀男&田中秀臣『日本建替論』(藤原書店)を出しました。これも震災復興から2012年の情勢までフォローした座談と論説を収録したものです。僕のは関東大震災の経済論壇の状況を描いたものでした。とても好きな本ですね。もうちょっと売れてほしいですが 笑

3 ドイツ大使公邸でAKB48(高橋みなみ、北原里枝、峯岸みなみ横山由依指原莉乃のみなさん)と要するに食事してだべってなごんだ件。日本のトップアイドルと治外法権下で、ドイツ大使と一緒に歓談しました。結構うれしいです、ええ、そりゃもう。

4 ももいろクローバーZとのDVD発売
 ももクロちゃんたちついに紅白かあ。このDVDにある金子さんの予言がすべて成就しました。これからももクロZZ(ダブルZ)の時代が……くるかはわかりませんが、このDVDボックスのイラストは衝撃的ですねw

5 カクリコン撃墜事件
 垣根を越えて連携して撃墜しました。すごい成果です。

6 トークイベント、ネット放送番組、経済思想史塾の開始などネット出演の年でした。

 本当によく出ました。経済思想史塾はライフワークぽいですね 笑

7 TBSラジオ Digでの林芳正氏との対論
消費税増税論争の一環で大きな話題を少なくともネットではよんだように思います。


8 他人のおにぎりがたべられない
雑誌ではなんといってもこの企画が思い出ありますね。もちろんAKBの総選挙でスポーツ新聞三分の一ぶち抜きとかアイドル関係はもう数えられないほど出ましたが。この『AERA」の特集は中吊り大賞もその週受賞しました。雑誌の企画では、『FLASH」で監修した「ママドルの経済学」と並ぶ新境地?でした。

9 NHKラジオ深夜便で四日連続

 これもすごいですよね。伝統ある番組で深夜、AKBを四日連続で専門的に語り、彼女たちの音曲を流すとは。

10 ニッポン放送でパーソナリティ

 今年はなんといってもラジオがとても好きになりました。いろんな局にでましたが、夕方のザ・ボイスで二回、そしてなんといっても平日の朝5時から8時までの「田中秀臣の朝ラジ」という企画。とても思い出になります。というかラジオに病みつきになりそうですw 自分でいうのもなんですがむいてますね 笑。お話しがあればどんどんやりたいもののひとつです。

(選外)NHKのEテレビの「日本人は何を考えてきたか」(福田徳三&河上肇)に出演しました。来年書籍化します。

さて来年はどんなことになりますか。

大山顕・佐藤大・速水健朗『団地団 ベランダから見渡す映画論』

 速水さんから2012年の新年会の席上でいただきました。で、いまさら感想かいてます(爆)。もうかなり前に読んで、すごい面白かった記憶があります。細部は忘れました! 

 しかも速水さんと対談した翌日のトークイベントの部分では、ありがたいことに僕の宮崎駿論の一部まで引用してくださってます。確かに『耳をすませば』の団地描写は素晴らしいのでしょう。「でしょう」というのはなんでしょう(韻踏んでます)。

 それは60年代から80年代まで不動産屋の息子(=僕のことです)にとって、実は団地ほど縁遠い世界はないのです! そうです、本書でとりあげられている大規模団地は、住宅公団だとか(ちなみに高島平の一部は都知事になった猪瀬さんがえんやどっこいしょとマジに作ったおmのですよw)地方自治体がつくり住人も募集しいているので、私らのような零細の不動産屋にはほとんど縁のないものなんです。

 なので大規模公団のある地域にはわたしたち一族はまったく住んでません。だって商売にならないので。なので友達にも団地住まいの人がいない。もちろんマンションやアパートはあるのですが、「団地」ぽい住環境と、僕の子ども時代は完全に隔絶してました。

 つまり不動産屋の息子のぼくにとって団地とはまさに映画やアニメやマンガでしかみれなかった場所でもあるのです。この本は団地を映画やアニメやマンガなどから切り口をひろげていますが、まさにその意味では、僕にとっては団地の「現実」そのものなんですよね。

団地団 ?ベランダから見渡す映画論?

団地団 ?ベランダから見渡す映画論?

常見陽平『僕たちはガンダムのジムである』

 だいぶ前に頂戴しながらtwitterでつぶやいただけでブログに感想を書きませんでした。遅れてすみません。これはもう誰もが認める名著でしょう。社会や会社を支える99%以上のふつうの人たち(=ジム)とは何か、どうしてそうなったのか、何をするべきなのか(してはいけないのか)、これからどうするべきか、などその指針を、『機動戦士ガンダム』をまったく知らなくても十分に理解可能な形で教えてくれるいい書籍です。

 「ぶったね、二度もぶった。オヤジにもぶたれたことがないのに」とアムロがいったことを知らなくても、ふつうの会社員がビシバシ肉体のみならず、どちらかというと精神をぶたれまくっている会社の内実なども統計や実際の体験に裏打ちされたその発言からもよくわかるでしょう。

 教育の現場もジム製造機だし、有名大学をでてTOIEC900点以上とってもジムなのである。しかしジムがいなければどんな優秀な経営者がいても会社は成り立たない。社会も同じである。それにジムが独特の光を放つこともある。その契機は自分の「戦記」を書くことだ。常見さんは社会人こそ自己分析を行い、その「戦記」を眺めて失敗の原因を探究し、またいままでやらされてきた仕事の蓄積を大切にし、そこから成長していくジム道を見出せといっている。

 実際に経済学者だって99%はジムである。僕の研究課題は、二流つまりジム型経済学者の研究が大学院からのテーマであった(昔から僕のことを知っている仲間はみんな知っていることだ)。それはジェイムズ・ミル(J.S.ミルは有名で、いまでも翻訳があるがこちらのミルを知る人は少ない)研究や処女作になった住谷悦治というマイナーな経済学者兼ジャーナリストの研究にもなっている。なぜ僕がこれら経済学者のジムを学び、彼らの「戦記」を学んだのか? 

 自分(=田中)が弱いことをとことん知っていて、自分もまた決してガンダムにはなれないことを自覚しているからだ。そしてジム経済学者として生き残る(つまりは自分の真価を発揮するためにも)戦略を、他のジムたちから学びたかったのである。

 いま書いたのは僕の経験を言いたかったのでは無論ない。本書ではそのようなジム道がまさに記述されていることなのだ。いい本である。

僕たちはガンダムのジムである

僕たちはガンダムのジムである

『ジャパニズム』10号(飯田泰之さんの対談)

 編集部から頂戴しました。ありがとうございます。今回の経済関係の記事は、ただ一点を除いて、マンガ含めて僕には読む価値はなかったです。もらっておきながらいきなりですみませんけど。

 その一点が飯田泰之さんと山口敏太郎氏との対談です。話題は地方経済や地方の商店街などの経済学的視点からの分析です。これは飯田さんの中でもまとまってあまり話題にならなかったテーマだと思いますので、飯田ファンは必読です。

ジャパニズム 10

ジャパニズム 10

飯田泰之『飯田のミクロ』

 かなり前に読み終わってたのですがブログでの紹介遅れました。経済学のわかりにくさは、その数学とかモデル構築の論理性にあるのではなく、経済モデルの前提になっている方法論的個人主義などの思想的な想定にある、という飯田さんの指摘は正しいと思います。僕もそれを説明したく、いまのAJERの経済思想史塾をやっているというのもありますが。

 本書はミクロ経済学(個々の主体の行動を分析する分野)のわかりやすい、先ほどの経済学が暗黙のうちに想定している前提を明らかにしながらステップを踏んで解説した入門書プラスアルファの本です。

 僕が学生のときは、わりとあったタイプの新書(文庫)で、かなりカチッとした内容のものです。これを読めば、例えばネットでもしばしば話題にあがる比較優位についても誤解は少なくなるでしょう。僕はいままで経済学をとくに専門としていない大学院生に教える機会がありましたが、これからはこの本を指定テキストにするのもいいかな、と思っています。

 しかし「飯田のミクロ』、当然にミクロ二巻目とかマクロとかでるんでしょうね。期待します。

飯田のミクロ 新しい経済学の教科書1 (光文社新書)

飯田のミクロ 新しい経済学の教科書1 (光文社新書)

竹井善昭(著)&内田和成(監修)『ジャパニーズ・スピリッツの開国力 だから、僕らはグローバル人材をめざす』

 竹井さんとは今年の初めにニコニコ生放送の社会的企業の討論番組で同席させていただきました。この企画、いまだになんで僕がよばれたか少し謎ですが。たぶんニコ生対応の経済学者が事実上、僕と飯田泰之さんぐらいしかいないからではと(笑…画面のコメント拾えて瞬発力で打ち返すスキル、というほどでもないものを発揮するGov2.0時代対応の経済学者です 嘘)。

 そんな縁でたぶん頂戴したのだと思います。ありがとうございます。本書の副題にあるグローバル人材とはなんだろうか、そこに僕は魅かれました。本書では後半にズバリ定義しています。それは国際社会におけるルール作りにタフに立ち向かえる人材だということです。

「ともかく日本は、国際社会におけるルール作りに弱い。コンセプトは作ることはできても、ルールづくりで負ける。略 日本国民自身も、いかにルール作りが国益を守り、日本経済の成長に寄与するかを理解していない。その典型例がTPPをめぐる議論だ。日本国内で意見が二分されちえるTPP参加問題だが、TPPに参加すると得か損かという議論しかない。TPPに参加することで、この仕組みをどのように利用しルール化すれば日本に有利か、どのようにすれば日本に有利なルールをつくれるのかという議論はまったくない。グローバル人材とは、他国や競合企業がどのような条件を突き付けてきても。それを逆手にとって自分たちの国や企業に有利な条件を突きつけることを考えることができる人間のことである」

ルールメイキング競争で闘える人材を育成することがこれからの日本の国際性と成長を担保するというのが竹井さんたちの主張だと思います。本書の終わりは現役学生や企業サイドを交えた座談会が収録されていて、読者として想定されている就職を念頭においている大学生たちに便利でしょう。

ジャパニーズ・スピリッツの開国力

ジャパニーズ・スピリッツの開国力

津田大介『ウェブで政治を動かす!』

 民主主義をどう刷新していくか、この古くて新しい問題に、インターネットを通じての試みをしようと、津田さんの新しい著作は呼びかける。特にオープンガバメントの動きが本書の主題だ。

 冒頭の章「政治的無関心は何を引き起こすか」では、政府の法案の成立過程、特に審議会を舞台にした利害関係者だけの関心で決まることが、いかに国民の一般的な利益を無視しているかが、記述されている。違法ダウンロード問題や著作権の延長問題など、津田さんの実際の反対運動の「成功」と「失敗」の体験と、そこから何を読み取るべきだったかが明らかにされている。

「審議会がこのようなクローズドな場であるならば、重要なのは、あらゆる議論において透明性が確保され、誰もが情報にアクセスできるオープンガバメントを実現することだ」
「特定業界のロビーイングによって、多くの利害関係者が蚊帳の外状態になり、不透明な形で法律があらぬ方向に変わる……そうした厄介なロビーイングが市民の利害と対立したときに市民側はどのように対抗していけばいいのか」
「“土地勘”のある人間がしっかり審議会での議論をウオッチし、問題点を明確に指摘すれば、政策は変わる(ことがある)」

この文言だけでも本書の問題意識は明らかだろう。

本書のオープンガバメントの論点では、例えば、安倍政権の下で急速に現実味を増してきたネット選挙をめぐるものがあるだろう。本書でも第五章でこの話題が詳細に論じられている。そこでの津田さんの意見はかなり冷静なものだ。特にネット選挙の便益と考えられる若年層の投票率の改善や、また選挙コストの低下などについても慎重に吟味されていて、いままでのスキルだとほとんど改善されないのではないか、というものだ。またソーシャルメディアの利用が政策重視か人格重視かという論点も多角的に論議されていて、例えば政治家の人格をもって有権者が選抜するときのデメリットについても言及している。

特にこれからのオープンガバメントの行方を考えるうえで、本書の中でもっとも刺激的なのは、最終章の事業仕分けライブストリーミング放送と「Gov2.0」エキスポについての話題だ。

前者のニコニコ動画などによる事業仕分けの放送の成果をうけて、津田さんは以下のように書いている。すこし長いが、津田さんの基本的な考えが要約されているので引用しておく。

「インターネット、ソーシャルメディアを通じて政府が持っている大量の情報はさまざまな形で公開されるようになった。加えて、我々は(今はまだ限定的ではあるものの)、メディアたる政治家の情報発信や議論が政策にどう反映されていくのか、その過程をチェックし、情報として共有することができるようになった。政策に関連する情報が可能な限りオープンになり、米大統領選の候補者テレビ討論で行われたような外部の専門家による政策情報に対するリアルタイムなファクトチェックが機能し、国民は政治家や官僚が暴走しないためのリミッターとして機能を果たすーこれこそが、筆者の考える理想的な政策観協だ。オープンガバメントが具現化するにつれて、情報の拡散、共有に優れたソーシャルメディアが担う役割も、より大きくなっていくだろう」(244ー5頁)

この理想的な政策環境を具体的に志向しているのが、Gov2.0(ティム・オライリーの提唱)の動きだ。このエキスポの取材記が最後の部分なのだが、津田さん同様にキャミ―・クロフトの講演の内容が興味を引くものだった。政府機関がオンライン・コミュニティを作る際の原則を語っている部分である。津田さんは日本のニコニコ生放送の事例なども利用しながら、このクロフトの議論を紹介していて実に刺激的だ。また個人的にニコニコ生放送に出る機会が多少ともあるので、「あるある」と頷くことしきりである。特に『ユーザーにパワーを与えること」(ニコ動では批判的なコメントをその場で拾って紹介するこが、コメントが荒れるのを防ぎ、生産的な方向に向かわせる可能性があるなど)や「瞬間的な対応をすること」などである。

ニコニコ生放送に出る人たちはこのクロフトのルールをよく理解しておいたほうがいいかもしれない。また本書では日本がtwitterの先進国であり、潜在的なオープンガバメントの先進国たる資源と素養を保持している国だとの示唆がある。しかし現実は政府サイドの動きは鈍い。だが、津田さんは本書全体を通してそうだが、実に前向きだ。この楽観的な姿勢は、例えば昨日ここで紹介した荻上チキさんの政策論の中にも感じる。その明るさが日本を照らすことを期待する(だけではだめで、僕も頑張ろう 笑。

本書は一度読んだだけでは果実をとりきれないだけ豊かであり、何度か読み直す機会がありそうだ。正真正銘の労作である。

ウェブで政治を動かす! (朝日新書)

ウェブで政治を動かす! (朝日新書)

ウェブで政治を動かす! (朝日新書)

ウェブで政治を動かす! (朝日新書)