倉山満『嘘だらけの日米近現代史』

 倉山さんから頂戴しました。ありがとうございます。ワシントン、リンカーンまでさかのぼり、日本人が抱いているアメリカに対する通念をどんどん論破していき面白い本です。特にペリー以来の日本人のもつ米国コンプレックスがにじみでている通念を検証していく作業は、地政学的な観点も踏まえて読ませます。ウィルソン大統領の功績については僕も胡散臭さを感じてたのですが、倉山さんはより過激ですね。そのうちウィルソンについては僕もこのブログでちょっと考えたいです。

 最近のクリントン、ブッシュ(息子)、そしてオバマと日本のその都度の政権との関連については、やはり日本の政治の未熟さを感じざるを得ません。特に民主党政権の対米外交がいかにずさんであるかを、ここでも地政学的な発想で痛烈に批判しています。

鳩山由紀夫首相は「米軍は沖縄から出て行け」「最低でも県外」と公約し、本当にこれをアメリカに突き付けました。おそらく退陣直前まで自分が言っている意味をわかってなかったのでしょう。地球儀を取り出し、アリューシャン列島〜沖縄〜台湾〜フィリピン〜インドネシア〜オーストラリアを縦線で結んでください。そのど真ん中が沖縄です。また、アメリカの同盟諸国はペルシャ湾から石油を輸入しています。ペルシャ湾から日本に向かうこの交通路の先には、ハワイ〜アメリカ本土があります。この横の線と先の縦の線の十字路がまさに沖縄です。これだけの地域をアメリカは守っているのです。だからこそ世界の覇権国家なのです。そして最も重要な基地は沖縄です。つまり鳩山首相が「米軍は沖縄から出ていけ」と言ったということは、「アメリカは世界の覇権を捨てよ」と迫ったのと同じなのです。国際政治の普通の感覚でいえば、日本の現在の力でアメリカに取って代わることは明らかに不可能です。その力があるのは中国だけです。つまり、「アメリカは世界の覇権を中国に渡せ」とも受け取れるわけです。オバマとしては「本気か?」とした言いようがないでしょう。

 もちろん本書の主張については、さまざまな議論が起こるでしょう。しかし「通説」に対して絶えず見直しを図る態度は、誰であれ一目置くことは間違いない、刺激的な本といえます。

関連エントリー倉山満『検証 財務省の近現代史』

嘘だらけの日米近現代史 (扶桑社新書)

嘘だらけの日米近現代史 (扶桑社新書)

鈴木亘『年金問題は解決できる! 積立方式移行による抜本対策』

 鈴木さんから頂戴しました。ありがとうございます。群馬から帰る電車の中で一気に読めました。鈴木さんの従来の主張が、さらにわかりやすく、また直観的なイラストが多くの読者の助けになるでしょう。

 年金問題は不安だし大事。だけど理解するのが難しい、とお感じの人はまずこの本から読んだ方がいいでしょう。

 まず厚労省やその周辺の官僚、研究者、政治家、評論家など「年金ムラ」の人たちは、「100年(以上)安心」であるといまの年金制度をほめたたえます。年金問題を批判して政権についた民主党は、まったくなんの抜本的対策もしていないのに、100年(以上)安心を連発する無策ぶりです。

 鈴木さんは厚労省など「年金ムラ」の人たちが主張するように、年金制度がまわっていないことを、具体的に数値で示します。例えば100年以上安心なはずの年金の積み立ては、デフレの継続、名目賃金率の伸び悩み、運用利回りの過大な想定値の反動などから、どんどん減少していき、10年もすれば枯渇することを指摘しています。そもそも800兆円に上る年金債務をどうするのか。1960年生まれ以降はどんどん年金を払っても払う以下しか受け取ることができない損失が膨らんでいく。民主党の一体改革がマクロ経済スライドを逆に拘束してしまう…等と、政策のミスがどんどん累積している事態を誰もとめられない、というのが鈴木さんの深刻な指摘です。何冊もいままで鈴木さんの本を読んできましたが、その若い人たちに今後のしかかる重負担には、思わず生唾を飲み込むほどです。

 実際に僕の周りの若い人たちも年金不安を口にしていますし、本書に示唆されているように、年金未納の増加は、若い世代の「反逆」の面もあるのかもしれません。

 ではこのような過大な世代格差をどうするべきか?

1)現在の年金制度は賦課方式(いまの若い世代がいまの老人たちを支えている)を積み立て方式(いまの若い世代が将来の自分のために積み立てておく)への移行を行うこと

2)既存の年金債務は年金清算事業団のバランスシートに移し、積み立て方式になった国の年金会計から切り離す

3)すでに保険料を支払った世代もこの年金清算事業団から年金をうけとり、また若い世代は積立てから受け取る。

4)年金清算事業団のもつ年金債務については、若い世代だけではなく、老人たちもその債務を引き受ける。ここが積み立て方式移行のメリット。現状の賦課方式のままだと若い世代にもっぱら債務が重荷になる。積み立て方式の移行では、若い世代と老人たちが税金の形でこれを少しずつ帳消しにしていくことになる。

5)年金清算事業団は当初は借金経営になる。それを資金調達するために年金清算事業団債を発行してこれは無理なく償還できる(詳細は鈴木さんの本を参照のこと)

6)税金の財源は、消費税、さらに本書で強調されているのが、年金目的の追加所得税を各世代に薄く広く適用、相続税、老人世代の高額所得者&資産家への「防貧保険」としての「掛け捨て」の発想など。

本書でも鈴木さんには珍しく(笑)ある一定のインフレ率1%を前提にした試算を展開している。もちろん名目所得や名目賃金率が安定的にプラスで推移することは重要である。だが、もちろんそれ以上に、積立方式への緩やかな移行は早くやればやるだけ大きなメリットが若い世代に享受できるだろう。

日銀問題と同じように、年金問題でも「年金ムラ」の抵抗は大きく、運が悪いと何年、十数年かかるかもしれない(そんなにかかったら手遅れだが)。何人もの経済学者の発言の力と命がかかるだろう。リフレ派の多くは鈴木提案に賛同している。僕もこの提案を支持する。この提案をよりスムーズに実現するためにもリフレ政策も必要になるだろう。

年金問題は解決できる! ―積立方式移行による抜本改革

年金問題は解決できる! ―積立方式移行による抜本改革