豊崎由美 『ガタスタ屋の矜持 寄らば斬る!篇』

豊崎さんから頂戴しました。ありがとうございます。「ガタスタ」とは、ヴァージニア・ウルフ由来の言葉で、「スタンプ」(評価)し、「ガタ―」(要約)する、というふたつの行為をまとめた言葉です。ウルフはこのふたつの行為をもって書評家を批判的にみているのですが、ウルフを尊敬する豊崎さんは、むしろこの「蔑称」ともいえるものを「誇りをもって名乗っていく所存」だと冒頭で宣言しています。

 本書の多くは、現代の若い日本の作家たちと、海外の翻訳物(大半は現役作家たち)の書評でしめられています。僕のように現代文学に疎い人間からすると、本書を通読することで、注目すべき作家たちとその代表的な作品がわかるというだけでも有難いものです。それに加えて、豊崎さんと僕とは同じ学年の同級生なので、やはり同世代の書いた文章ということで非常に面白かったです。

 たとえば、ミシェル・ウエルベックの『ある島の可能性』(角川書店)の書評で、小説から以下の文章を引用しています。

<私たちが創りだそうとしているものは、まがいものの、薄っぺらな人間なの、それはもはや真面目にも、ユーモラスにもなれない人間、やけくそになって死ぬまで娯楽やセックスを求める人間よ。一生キッズでありつづける世代。私たちはそういう人間をきっと創りあげるでしょう>

 これをうけての豊崎さんの文章。

「それって、半ばオデのことじゃん! スター・ウォーズのボトルキャップをコンプリートするのに血道をあげたり、四十五歳にもなって敗れたジーンズをはいたり、自分のことを「オデ」とか言ってるオデのことじゃん!」(91頁)。

 これには思わず噴き出したものの、僕もそうじゃんか! と激しく共感(共感されても困るでしょうがw)したものです。そしてたぶん「キッズ」度を競ってしまいたくなるのもこの世代に共通しているんじゃないか、とさえ思えてきます。

 さて本書を通読すると、世界にはまだ未知なるものがたくさんあり、想像を超える小説世界がだーと(擬音でしか僕には表現できないほど)広がっていることがわかりわくわくします。読書欲をそそることこそ、ぼくには書評の最大の効用だと思うのですが、その意味でも本書は大切な読書の友になりました。

ガタスタ屋の矜持 寄らば斬る篇

ガタスタ屋の矜持 寄らば斬る篇