7月23日、「AKB48の経済学」ならぬ「SKE48の経済学」で模擬講義

 7月23日(土曜日)に上武大学オープンキャンパスが開催予定ですが、そこで「AKB48の経済学」と題した模擬講義をやります(オープンキャンパスは高崎キャンパス、伊勢崎キャンパス両方で開催しますが、私の模擬講義は伊勢崎キャンパスで午後12時半からです)。実は去年もその題名で模擬講義をしてそのまま書籍『AKB48の経済学』刊行に直接結び付きました。一昨年は「宮崎駿の経済学」でこれも昨年一部を論文にして公刊してます。

 今回は題名は昨年に続いて同じですが、同じことをやっても個人的に退屈なので、SKE48の経済学とかに事実上内容を刷新してやりたいと思っています。お近くの方、また関心のある方はぜひどうぞ。時間は短い(15分程度)ですが、内容充実でやりますよ。

上武大学オープンキャンパスはこちらhttp://www.jobu.ac.jp/nyushi/oc.html

高崎キャンパスではなく、模擬講義は伊勢崎キャンパスで午後12時半から15分ですのでお間違いなく。そこでしか聞けないSKE48の経済学w

AKB48の経済学

AKB48の経済学

23日の高橋洋一、上念司、田中秀臣のトークライブの特別ゲストは2525稼業、昭和恐慌期の歌曲特集

 今週土曜日午後7時からのエコノ3アミーゴズのトークイベント。今回の特別ゲストは、2525稼業のみなさん。

http://nikkoniko.exblog.jp/ (2525稼業のHP)

2525稼業の平山亜佐子さんはこのエントリーでもあるように河上肇賞の奨励賞を受賞した異才でもあります。最近では個人雑誌『趣味と実益』を刊行して注目されてます。平山さんにお願いして、トークライブ本編の中間で、昭和恐慌期に流行した歌曲をいくつか歌っていただき、当時の世相におもいをはせたいと思います。もちろんトークライブ終了後は2525稼業のさらに多彩な音楽世界をグラス片手に(おいしい料理とともに)聞くことができます。

こんな贅沢な知的かつ政策実践的なトークライブはほかにない? 

的中したら来るのは地獄、経済のホントに怖い話
エコノ3アミーゴズの経済大予言! #2 震災増税2011、日本は二度死ぬ !
 〜 2011 Japan Only Die Twice 〜

日  時 2011年7月23日(土) 18:30open 19:00start
場  所 One Beat
     東京都新宿区 百人町1-19-2 ユニオンビル1→MAP最  寄 JR総武線「大久保」北口徒歩3分
料  金 1500円(当日券500円up)→チケットの購入はこちらから

2525稼業の「アラビアの唄」(1928年)

アマルティア・セン『アイデンティティと暴力』

 例えば僕の研究している領域でもマルクス主義+熱心なキリスト教徒という経済学者がいる。これは人間のアイデンティティを単一のものとしてしかみなさい人たちからみると矛盾しているか、なんらかのごまかしているようにしか思えないだろう。でも、人間のアイデンティティの複数性があたりまえだと思えばこの「矛盾」とか「ごまかし」とかいう見方はあてはまらないだろう。

 「日常生活のなかでわれわれは、自分がさまざまな集団の一員だと考えている。そのすべてに所属しているのだ。国籍、居住地、性別、階級、政治信条、職業、雇用状況、食習慣、好きなスポーツ、好きな音楽、社会活動を通じて、われわれは多様な集団に属している。こうした集合体のすべてに人は同時に所属しており、それぞれが特定のアイデンティティをその人に付与している。どの集団をとりあげても、その人の唯一のアイデンティティ、また唯一の帰属集団として扱うことはできない」20頁。

 このセンの説明にネットの空間、物語空間を重ねることで議論を拡大することができることを数日前のエントリーでもみた。このアイデンティティの複数性に対立する見解が、アイデンティティを単一のものと強固に主張している文明の衝突型の議論だ。センは文明の衝突型の議論には手厳しい批判を展開している。また「宗教連合」的な見方(本書ではガンディーの議論との関連が展開されていて非常に刺激的だ)やコミュニタリアン的な見方(サンデルの議論などはその典型だろう)についても、センはそれらの考えが事実上のアイデンティティの単数性に依拠しているとして批判している。

 経済学でも長くアイデンティティの単数性についての信奉があった。そのうちアイデンティティをめぐる議論は消滅してしまいつい最近までろくに議論されることはなかった。単数性のプロトタイプの議論は、アダム・スミスに端を発しジェームズ・ミルで体系化される英領インドの統治論にうかがうことができる。そこではインドの文化の特徴が単一のものとして記述され、それが停滞をまねき独力では経済発展できる心性ではないと断じられている。対して、イギリスの統治側は別の単一な性格=経済発展を独力で行える、という性格が付与されていた。後にこのような見方はサイードによってオリエンタリズムとして批判された。このスミスーミルの人間観(アイデンティティの単数性)は古典派経済学を貫いている(例外はJ.S.ミルだし、スミスだって実は複数性を支持してはいるのだ)。だがまだ古典派はアイデンティティを議論していたのだが、後年は先にも指摘したが後年はなかなかそれが経済学の中心的な話題にならなかった。アイデンティティの問題はセンのいうように重要である。社会のより望ましい方向を議論するときも、人がなぜ暴力にはしるかを考察するときにも。

 訳文は最近トレンドになりつつある経済の専門外だが翻訳能力にたけた人と、経済学の専門家のコラボの成果であり、読みやすい。

アイデンティティと暴力: 運命は幻想である

アイデンティティと暴力: 運命は幻想である

経済学・政治学著作2011年度上半期ベスト

 『週刊東洋経済』で同様のベスト3を選べというアンケートに毎回参加しているんだけど今年も投票した。どんな本を選んだかはみてからのお楽しみだけども、いつものように基本的に翻訳ものはそちらの方のアンケートでは(少なくとも経済書では)選んでいない。ここでは翻訳物を含んだ広範囲なベストを紹介してみたい。

経済関係で昨年の12月からいま現在まで心に残ったものは『AK…というのは冗談だが(とはいえたぶん経済書の中ではもっとも話題になったものの一冊だと自負はしているw)、やはり東日本大震災をめぐる問題をテーマにしたものを選ばないといけないというバイアスがどうしても働く。その中でも最も価値のあるものは、やはり

岩田規久男先生の『経済復興』にとどめをさすだろう。実際に石橋湛山の戦後のインフレ政策についての解釈を読んだときは日本経済思想史の専門家としても「やられた」と思うほど切れ味するどく斬新。もちろん復興の斬新的な提言もばんばんだしていて、いま話題の焦点であるエネルギー政策についても、被災地の都市計画についても実践的な解法を提起してくれている。

経済復興: 大震災から立ち上がる

経済復興: 大震災から立ち上がる

次に大震災を逆手にとってやたら内向きな意見が最近多くなったTPP関連。特に日本の農業とそのマスコミ、知識人たちの発言に焦点をあて、また監督官庁農林水産省や既得権団体(農協とか過度に保護されてる「農家」層)発の喧伝を問題視しているその容赦のない舌鋒で、浅川芳裕さんと飯田泰之さんの『農業で稼ぐ!経済学』を推したい。マスコミの農業をめぐる報道になんとかのひとつ覚えのように出てくる、「小規模零細」「高齢化」「後継者不足」「耕作放棄地の増加」「先進国最低レベルの自給率」という負のキーワードと、「食の安全」が侵され、「食糧危機」を煽るというマスコミのよくある手口を、本書は冷静かつ熱い口調で、データと単純明快な理論とともの解き明かしていきます。

ところでこのマスコミの負のキーワードを「日本の下請け構造」「高齢化」「若者ダメ論」「欧米にキャッチアップしたので発展の余地なし」「先進国最悪の国債発行残高」とかに書き換え、そして「将来の安定」が侵され、「財政危機」になる、とでも書きかえれば、日本銀行問題を中心にするいまの大停滞に関するメディアの書き手のマインドを鮮明に描くような気がしている。本当にこういう農業もそうだけど、ほとんどの新聞の記者連中の書き方が官僚発なのはやれやれである。

農業で稼ぐ!経済学

農業で稼ぐ!経済学

で、一番面白かったのが(でも自分がかかわったし、それに翻訳ものだったのでアンケートには書かなかった)タイラー・コーエンの『創造的破壊』。かれの新作の『大停滞』もまもなく翻訳がでるみたい。翻訳もので面白いものはピーター・T・リーソンの『海賊の経済学』。ただ僕個人があまり海賊ものが好きではなくて、なんとone pieceもパイレーツ・オブ・カビリアアンもそれゆえまったくみていない、ちょっと読むのに難儀したけれども、無法者たちがなんで海賊団という組織をまとめることができるのか、ひとつのマネージメントのあり方として読むこともできるかも。これを読むとAKB48の成功とやがてくる失敗の主因も予測できるかも…しれない? 笑。

海賊の経済学 ―見えざるフックの秘密

海賊の経済学 ―見えざるフックの秘密

政治関係では1冊だけをご紹介。東洋経済で一位にあげたものじゃないw(それは読んでからのお楽しみ)。

原書で読んでてなかなか面白いなあとおもったもので、まさかこんなに早く翻訳がでるとは思わなかった。ぜひ小田中直樹さんの『ライブ合理的選択論』やブライアン・カプランの『選挙の経済学』などと一緒に読んでほしい。

数と正義のパラドクス 頭の痛い数学ミステリー

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