物語の経済学の手書きレジュメ

これは16日に行われた現代経済思想研究会で配布した手書きのレジュメをネット用に再掲載したもの。

A.物語と「読み手」



(1)のケースは物語と「読み手」のアイデンティティが完全に重なる世界。小松左京の用語でいえば、仮想自己=現実の自己。

上のように(1)のケースでは、完全に重なったまま外部に膨張する性格を有している。この場合は、村上春樹の「クローズド・サーキット」、タイラー・コーエンの「行き過ぎたルール規律型の私」を示す。
(2)と(3)の場合は、(1)を抑制する領域を含めながら、外部にも拡大する領域(村上春樹の「オープン・サーキット」)を含む。

B.人は物語の複数化を経験している(アイデンティティの複数化)

上記は“一人称”の物語空間
ひとつの物語=アイデンティティから空間を通じて、他の物語に向かう力のベクトルが描かれている。

C.一人称の物語と三人称の物語

一人称の物語空間と三人称の物語空間が重なることで、「僕の物語」が「三人称の物語」に影響を与えることもあるし、他方で逆の影響関係も生じる。
影響のあり方は、一人称空間にある個々の「僕」の「物語」が、クローズド・サーキット化することもあるし<宗教に影響されたカルト化や、経済学のモデルでしか現実をみれないなど>、逆にオープンサーキット化することもあるだろう。また三人称の物語空間も一人称の物語空間によって変化することもあるが、その影響は限定的だろう(非対称性の存在……例:個人が科学に貢献できるのはできてもごく一部)。

D.現実と「ゲンジツ」(虚空間)

手書きレジュメ終わり。

(注記)もちろんこのレジュメはまさしく「要約」であり、当日の研究会での補足説明がなければおそらくこれだけではわからないだろう。当日はタイラー・コーエンの『創造的破壊』に収録された解説、さらに近刊予定の小松左京氏らとの共著に収録予定の論文「物語というメビウスの輪」を同時に提出した。

創造的破壊――グローバル文化経済学とコンテンツ産業

創造的破壊――グローバル文化経済学とコンテンツ産業

また上記レジュメの最後にでてくる「内村鑑三の三角形」は、福田徳三や河上肇らとの関連も含めて以下の書籍にある田中論文を参照のこと。

日本思想という病(SYNODOS READINGS)

日本思想という病(SYNODOS READINGS)

レジュメにあげられている村上春樹(2010)は以下に収録されたロングインタビューを指す。

考える人 2010年 08月号 [雑誌]

考える人 2010年 08月号 [雑誌]

高橋洋一さん、上念司さんと田中秀臣=僕の三人で最近の政治・経済問題の勘所を議論します

以下のトークイベントがいよいよ今週末。最近、ますます混迷する日本の社会の動きをまとめてしりたければぜひここに集合。特別ゲストもあるかも。経済ものにしてはめずらしいくらい女性客のウェイトも多く、世代の幅の広いのも僕らのトークライブの特徴です。お楽しみに! 早いとこチケット予約しないと、前回は満席でした!

エコノ3アミーゴズの経済大予言! #2「震災増税2011、日本は二度死ぬ ! 」
 〜 2011 Japan Only Die Twice 〜

[出演]
田中秀臣(経済学者・上武大学ビジネス情報学部教授、『震災恐慌!』共著者)
上念 司(経済評論家・勝間和代ビジネスパートナー、『震災恐慌!』共著者)
高橋洋一(経済学者・元内閣参事官嘉悦大学教授)

 先月、大好評で開催された「震災恐慌!」(田中秀臣・上念司著:宝島社)の出版記念トークライブ。著者二人とゲスト高橋洋一との見事なコンビネーションは、場内を納得と爆笑の渦に巻き込んだ。この面白さと説得力はホンモノと、ついにチーム結成 -- 80'sの名作コメディ「サボテンブラザース」にちなんだ、「エコノ3アミーゴス」としてLive Wire再登場が決定した。 さて、今回のテーマは、「菅政権が実際に増税に踏み切ったらどうなるか?」を大予言。
 夏の怪談話ではないが、これは「経済のホントに怖い話」。増税が引き起こす各種の経済混乱は、原発事故よりも広く確実にあなたの生活を蝕み、例外なく破壊していく。被災地のため -- というお為ごかしな言葉と裏腹に、実は被災地を一番傷めつけ、日本経済全体も沈没させてしまう。増税こそもっとも恐ろしい人為的「災害」なのだ。
 さらにひどいことに、そんな「悪の政策」を実現すべく、政府/財務省は御用学者を使い、東電の隠蔽工作を彷彿とさせる、不気味な増税プロパガンダが進行しつつある。これが今回の最大のテーマだ。彼らの言説の奇妙な論理を、我らが3アミーゴズ徹底的に糾弾、弱者救済の名目でばらまかれる恐るべきウソの情報を暴き、本当にあるべき復興財源のありかたをお教えしましょう。
 今日本が背負った経済的課題=硬くムズカシイ話題を、徹底的に柔らかく煮込んでみせる“美味しい”経済漫談。これを聞けば、あなたも明日、早速会社や酒場で話したくなるなることウケあい!

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[日時] 2011年7月23日(土) 開場・18:30 開始・19:00

[会場] One Beat(東京都新宿区 百人町1-19-2 ユニオンビル1F)(地図)JR総武線「大久保」北口徒歩3分

[料金] 1500円(当日券500円up)

詳細は以下に
http://boutreview.shop-pro.jp/?pid=33082805

高橋洋一『これからの日本経済の大問題がすっきり解ける本』

高橋洋一さんの新著を読めば、最新の経済・政治問題の勘所が分かる。特に日本のマスメディア(大新聞やテレビ)がほとんど役所とその役所の出身者や利害関係者(御用知識人や御用学者)の伝言ゲームであるのはもう明瞭すぎるくらい明瞭ななかで、高橋さんの発言は異彩を際立たせている。代替的な意見のあまりない日本社会の中で、「お役所のホームページに書いてあることを脚色した程度の情報」しかない言論の場では、高橋本は貴重なリソースであり続けている。本当に「人口減少でデフレ」「景気回復やデフレでなくなると国債暴落」など役所のたわごとをそのまま日本の評論家たちが再生産している現状には驚くしかない。いまだに日本は大本営発表の次元にいるのだ。

本書でも大新聞の論調の主流である「財政再建+震災復興」の両輪を行え! という主張がいかに胡散臭いものか、その理論的な根拠のなさを説明している。例えば高橋さんによれば震災復興の財源、例えば約18兆円など、物価に変化を与えることなく(もちろんデフレの深化をふせぐ最低限度の効力はある)、現状の政策の枠組みでも十分だせ、それは財政を悪化させることもない、と一刀両断である。それがなぜできないか? 官僚たちの提案する政策の組合せは、この非常時でもあいかわらず前任者のやっていたことをそのまま提案するものであり、要は自分たちの出世が脳裏になるからだ。国民のことなど何も考えていない。そして官僚たちの提案をなぜ政治家たちも鵜呑みにするのか、これまたサラリーマン意識だからだ。つまりは自分の「出世」やスムーズな仕事に齟齬がきたすろとでも思っているのだろう。つまりは官僚や同僚議員は身の回りの支援者だけの「世間」だけで閉塞している政治家ばかりが多いのだろう。

「政府と与党、そして心ある政治家には、被災者をとるか既成エスタブリッシュメント官僚組織をとるか、いまこそ本当の「政治主導」を発揮してもらいたい」(同書23頁)

とあるが、まさに問題の核心をついている。実はこの前、ある講演をしたが、非常に若い政治家が財務省日本銀行の受け売りの発言をそのまま質問してきたので驚いた。若い世代の政治家だからといって既成の役所の宣伝から自由ではありえない。それだけ大本営的思考はこの国を根底までがんじがらめにしているのかもしれない。

 さていま政府や役人たち、それの傀儡である震災復興会議の提言のように、増税で復興をするとどうなるのか? 高橋さんは次のように指摘する。

「ただでさえ、震災ショックでGDPが最大0.5%低下すると内閣府は試算しているが、増税すればその2倍の最大1%低下することもありえる。内閣府の試算には福島第一原発事故計画停電の影響などは織りこんでいないため、経済的な影響はさらに大きくなる可能性がある。このように、震災のショックは地域的に分散し、さらに時間的にも分散しなければいけないのに、増税はまったく逆の効果をもたらす」41頁。

 本書はさらに第3章「日本の政治に「国民」はいない」に示されるように、東電と政府の癒着、電力問題などにも独自の視点で切り込んでいる。ここらへんの議論はこんどの23日のトークイベントでさらに立ち入って議論したい。異論反論もちろん賛成ともに大歓迎である。卑怯な何もしない政策にコミットする多くの役人やその代弁者(ネットでも多い! 「国」=ながいものにまかれたいというたぶん幼児的な異常な執念を背景にしているのかもしれない)のように陰湿な批判よりも、どうどうと反論するべきである。まあ、残念ながら官僚とその代弁者たちにはそういう直言をしても意味がないのかもしれないが。