選挙の経済学

 ずいぶん長くかかったがようやく衆議院が解散である。政権交代の是非をめぐるものだという。ところでこのブログでもかなり長い間、政権交代の可能性を見据えて、いくつもの与野党の経済政策スタンスを検証するエントリーを掲載してきた。

 自分でも忘れてしまうぐらいいろいろ書いてきたので、いい機会なので整理してみたい。

まず3月時点で、すでに「ポスト麻生政権」の経済政策について論じていた。これは当時の経済政策のフルメニューを与野党の比較の上で整理していたものだ。

ポスト麻生政権の経済政策を吟味する:http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20090330#p1

ところで今日の謝罪会見で、麻生首相は「市場原理主義との決別」に言及していた。これは小泉構造改革への決別としてメディアでは報道されている。まあ、この発言自体に何か具体的な意味はないだろう。麻生政権のミクロ的な政策スタンスについては以下で何度か触れた。

]不況対策とクローニー資本主義化する日本?:http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20090331#p2
日本政策投資銀行、完全民営化撤回へ :http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20090528#p1
ネタ? 厚労省分割 http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20090528#p1

麻生政権のマクロ経済政策についての現状評価については、「底入れ」認識、「失業率過去最悪ターゲット」、「財政政策中心への批判」などについていままでふれてきた。

政府発「底入れ」への懐疑、民主党議員の清算主義orz:http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20090615#p1
内閣府(岩田一政試算)、失業率は7%リスクの展望とその問題点:http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20090331#p1
大型補正予算でも小出しの罠:http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20090407#p1
宮崎哲弥・若田部昌澄・飯田泰之「経済常識のウソを斬る!」 :http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20090521#p2
岩田規久男・若田部昌澄論説を読んで:高橋財政の教訓を直接活かせ :http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20090612#p1

政権交代を狙い、その可能性が高い民主党の経済政策についてはかなり批判的な論調で書いてきた。

若田部昌澄「民主党大恐慌?」とケインズの闘い:http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20090227#p1
民主党が政権とると景気悪化:http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20090511#p1
鈴木淑夫『日本の経済針路』、民主党の政策のバイブル?:http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20090721#p2

もちろん特定政党を応援するというスタンスを僕はとらない。政策ベースで賛成を表明してきたつもり。与野党の議員ベースでの発言(山本幸三馬淵澄夫中川秀直各氏ら)としていままで以下のものを書いた。

政治家が景気問題を語るには執念(コミット)が必要:http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20090611#p1
日銀の国債引き受けの国会議決への助走:http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20090411#p4
中川秀直の眼:なぜ過去最悪の失業率5.5%を目標にするのか?:http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20090411#p6
(このブログのエントリーではないが、econ2009さんの)小沢鋭仁「「インフレ目標」で結果責任を」:http://d.hatena.ne.jp/econ2009/20090616/1245133285

以上、自分の備忘録も兼ねてまとめた。

鈴木淑夫『日本の経済針路』、民主党の政策のバイブル?

 民主党の経済政策について論説を書くために購入。利上げ派の家元の書。

 さすがに白川日本銀行総裁を「孫弟子」というだけあり日本銀行が過去と現在にもっていたすべての「日本銀行思想」をフル回転させている。いわく良いデフレとか「強い円」だとか、最近では「輸出構造論」とか。

「〇一〜〇八年の小泉・安部・福田政権の下で、日本国民の生活は、超低金利による預貯金の目減り、円安による輸入品の値上がりと海外旅行費用の上昇、〇七〜〇八年の生活物資の値上がりによる実質所得、実質賃金の下落、雇用不安という四重苦を味わってきた。国民生活にとっては、低金利より高金利が有利、円安より円高が有利、インフレよりデフレが有利、雇用の不安より安定が有利である」

 さて鈴木氏も「闇雲に金利を引き上げ」ることはしないと注意書きしている。鈴木氏はこういう。

 「(1)超低金利を、預貯金が目減りしない正常な水準に引き上げ、(2)名目円レートの円高(実質実効レートの安定)を許容し、(3)国内物価が安定する、という三つの条件の下で、不況にならない日本経済をどうやって作るか、ということである」という。

 さらに「財政緊縮、超低金利」から「財政中立、正常金利」にポリシーミックスを転換することが生活重視の政策らしい。いずれにせよ、どうも「正常金利」つまり「預貯金が目減りしない正常な水準」が政策のひとつのキーである。では「預貯金が目減りしない正常な水準」とはどのくらいの水準なのか? 二三ページに例示されているが、消費者物価上昇率(前年比)と同じである。例えば鈴木氏は〇八年の消費者物価上昇率と3年物定期預金残高の平均利率の差に注目して、1.17%の純金融資産が消失した可能性を指摘している。ところで鈴木氏は上に自ら述べているようにデフレの方がいいといっていたので、もし仮にマイナス1%のデフレが続けば、この鈴木氏の論法では、超低金利でも純金融資産は増加することになるだろう。その意味でも鈴木氏にとっては「良いデフレ」なのかもしれないが。この差額理論によれば、物価が0%で「安定」していれば、金利も〇%で「安定」していてもいいのだが、0%だと短期金融市場の機能がマヒするので0%よりも高めがいいようである。デフレがいいといっているので、デフレのまま、金利が0%よりも高く「安定」していることがベストなのだろう。もちろん差額理論では、このときデフレが深刻で金利が高いほど純金融資産は増加する(としか鈴木氏の本を読むと思えない)。そのとき円高が「安定」し、不況にならない経済が実現されているらしい。

 現状の日本経済は鈴木氏からみるとこの(1)から(3)までの条件をみたす「安定」への調整過程ともみなしていいのではないか? 不況ではなく日本の経済体質を変える「調整」なのである。名目円レートは円高傾向、国内物価はデフレ傾向である。雇用は日本最悪の5.5%で政府は安定すると思っているようだし。さらには市場関係者の多くは今年度後半には金利の「正常化」が起きると信じているむきも多い。

 こう考えてくると民主党日本銀行総裁人事で反対し続け、結局は「孫弟子」白川氏を選ぶことになったのは、当時からよく練られた政治的針路(笑)とでもいいたくなってくる。僕はこの鈴木氏の提示する針路は日本経済の大災疫になるだろうと思う。その根拠はいままで何十回もこのブログでも自分の著作にも書いてきたのでリンクをするのも面倒なので省略する。もちろん僕はその他大勢の経済学者・エコノミストの主張を大差ない。例えば浜田宏一岩田規久男各先生の論説を読まれた方がずっといい。だが、いまの民主党には、鈴木氏がここで書いた政策に類似した環境が「失われた10年」をもたらしたり、昭和恐慌を招いたといっても聞く耳はないだろう。国民はいまよりも一段と深い経済的災疫が起きる可能性を真剣に考えるときが近いように思える(もっともこんないさましい??政策を本当に臆することなく民主党日本銀行が協調してやればだが)。

日本の経済針路―新政権は何をなすべきか

日本の経済針路―新政権は何をなすべきか

関係ないなあ

http://d.hatena.ne.jp/himaginary/20090715/salmon_on_blogging

 関係づけられてる梅田望夫氏のインタビューはいま読んだw だから僕の慨嘆とは関係なし。あと参照されてるブログ入門もよくはできてるけど(希望ある名無しさん系初心者には最適かも)、これも僕の慨嘆とは直接は関係ないなあ。

 しかしコウェンの新著、半分まで読んでちょっと先にいく気力がいまはない。なんだかウェブ2.0だかなんだかという梅田氏や佐々木俊尚氏らの数年前のおめでたいお話を再掲しました、みたいな切り口で、慨嘆派(笑)としてはちょっと読むに堪えない。後半は気が向いたら読むかも。

Create Your Own Economy: The Path to Prosperity in a Disordered World

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