永野護『敗戦真相記』再読

 昨日の20世紀メディア研究会は、相変わらず研究者としてのおたく趣味を満足させる報告で、勉強になりまくる。それと報告が30分程度であとは質問と議論でおしまい、全体が3時間半で5報告は聞いてる方も負担が少なく理想的。昨日は田村紀雄さんの戦時下・占領期における語学兵(主に日系二世からなる米兵)についての考察だった。この語学兵はヨーロッパ戦線に参加した日系米兵たちに比較してまったく歴史の陰に隠れてしまった存在であり、実際には日本統治上あるいはアジアにおける諜報活動全般としても欠かせない存在であったにもかかわらず、語学兵が厳しく守秘義務ないし意識を持ったことでほとんど研究されていなかった。田村報告はそれに光を当てたもの。以下などは語学兵に関する少ない研究のひとつだそうだ。

Nisei Linguists: Japanese Americans in the Military Intelligence Service During World War II

Nisei Linguists: Japanese Americans in the Military Intelligence Service During World War II


他には李修京さんの『セウル・プレス』という朝鮮の英字新聞とそれによる朝鮮統治の一手段としての役割についての考察が続いた。あとは僕を含む経済関係の報告。

 さて昨日、ちょっと書いた『自由国民』には復刻されたものがあってそれが創刊号(昭和21年冒頭)の永野護著『敗戦真相記』・これはバジリコから2001年に出てて、あとがきを読むとFacta阿部重夫氏が眼をつけていたらしい。これが復刊されたときには、確かに驚いた。当時、この敗戦真相紀を僕は書籍(雑誌なのだが仕様はほとんど書籍)で持っていて、いつか研究するかな、と思っていたのである。そこからでさえもう10年近く前、そもそも『敗戦真相記』を含む『サラリーマン』研究をやりはじめて13年くらい経つ。時はあっという間にすぎるなあ。

 ところで『敗戦真相記』は日本がなぜ負けたかを分析したものだが、これは本当に今読んでも面白い。要するに官僚国家日本として負けたということである。戦争のための準備も計画もそんなものを日本の政府も軍部もろくに実行する能力も可能性もなく、いたずらに事態を非科学的ともいえる予測と思惑だけで悪化させていったというだけである。官僚(軍部も官僚組織の典型である)は相互の縦割り行政=陸軍と海軍の調整に失敗し、その失敗を隠す(情報の隠ぺい)ことでさらに事態の悪化の長期化をもたらしていく。この調整の失敗、情報の隠ぺい、そして人的な資源の配分のミスなどが累々と蓄積していく。その一方で、日本を含むブロック経済圏を構築し、自給自足主義で資源収奪を至上目的にするようなイデオロギーが何の反省もなくまん延していき、形だけは外国への対立が先鋭化していく。日本はその非合理性と非効率性ゆえに戦争に負けた、というか戦争を始めたこと自体が敗北の決定的条件なんだが。これを読むと日本銀行という官僚組織が一貫して責任を逃れ、さらには政府との調整を失敗し、業界にいればよく知られているように多くの御用学者と御用ジャーナリスト(こちらはネットでもよくわかる事例が見つかるだろう)を利用して情報のコントロールをはかろうとする(でもうまくもちろんできないのでリーク問題が起きる)、という見かけだけは権威的で紳士的だが、なかみはげろんちょ丸出しなのは、日本銀行をしれば知るほど自明なんだよね。戦前と違うのは御用の連中に足をひっぱられるつつも、批判が可能な環境が一応実現しているからでしょう。

敗戦真相記―予告されていた平成日本の没落

敗戦真相記―予告されていた平成日本の没落