淡島千景・梶谷懐他『淡島千景 女優というプリズム』

 梶ピエールこと梶谷懐さんから頂戴しました。どうもありがとうございます。

 本書は日本の大女優である淡島千景さんの戦前から現在までに至る女優としての軌跡が、ご本人、マネージャー、縁の深い方々への長期にわたるインタビュー、そして多くの研究者の貢献によって見事なタペストリーとなって結実した名著だと思います。梶谷さんは、本書に「淡島千景と「三十年代/三〇年代の風景」という論説を提供されています。

 梶谷さんの論説のあまりにうまい切り口に正直驚きました。経済学と女優ー映画論との架橋に成功した見事な論説です。昭和恐慌期からその脱出後の一九三十年代と昭和三〇年代を重ね合わせ、そこにさらに都会と農村の相違、そして女の役割の変遷とそれを演じる淡島さんの演技への評価、と幾重にも折り重ねた濃密な論説で、最近読んだものの中で、その文体の手練とでもいうものにもっとも感嘆しました。掛け値なしの好エッセイです。

 また淡島さんの女優の歴史を考察することで、本書は戦前から特に50年代後半までの現代史をまさに輝くプリズムのように切り出すことに成功していますね。まだ全部は読んでないのですが、最近の獅子文六再評価とも重なりますし、また成瀬巳喜男の奥深さ(たぶん小津よりも現代的意義ありまくりです)も、梶谷さんのエッセイからも本書のほかの部分からも得ることができるのではないでしょうか。ぜひ、このブログの主要読者層である経済問題に関心のある人たちに読んでいただきたいな、と思いました。吉川洋の高度成長モデルや、『昭和恐慌の研究』などの成果が積極的に活用されていることも経済系の読者には興味あることだと思います。

淡島千景―女優というプリズム

淡島千景―女優というプリズム