占領期雑誌研究

 昨日は、早稲田大学へ占領期雑誌研究会(代表:山本武利先生)に行ってきた。僕らは経済思潮班ということで、加藤哲郎先生の下の社会思潮班の中で、プランゲ文庫(占領期に発行され、占領軍によって検閲された雑誌・新聞を収蔵したもの)をもとにした資料調査、研究をこれからかなり急ピッチで進めなければならない。

 もともと僕は戦前の経済雑誌『サラリーマン』などの研究をしていた関係で、この種の雑誌研究は非常に興味を持つ分野であり、まさに惑溺してもいいとさえ思う関心領域である。昨日の研究会では、メディア、コミュニケーション、政治といった領域でそれぞれご活躍されている、山本先生、田村紀雄先生、加藤先生らのご報告を聞くことができ、それが実に刺激的だった。

 山本先生のご報告は占領期雑誌研究のこれからの進行見通しというべきもので、特に岩波書店から予想以上の好評をもって迎えられている『占領期雑誌資料体系』の刊行をこれから積極的にすすめる、というお話だった。現在、刊行中のものは、僕は特にマンガ関係に注目していて、小野耕世先生の解説記事は毎号必読である。特に次回に配本される第4巻には、小野先生のお父様の「探訪漫画家・小野佐世男」が収録されるためにさらに必読である。

 さて、加藤先生のご報告は、1950年のトヨタ争議以前に出版されていた『トヨタ文化』を研究したものであり、これがいまのトヨタ的風土(労使協調体制、トヨタ生産方式など)とどのように連結するのか否か、というものであった。同誌はいまやほとんど忘れられているが、例えば占領したで行われた数少ない天皇制への世論調査、職務別・年齢階層別などの詳細なレジャーや仕事をめぐる意識調査などが収録されていて、それだけで戦後まもないころの日本の企業文化を知ることができ、非常に刺激的であった。

また田村先生は、私の職場がある群馬県伊勢崎市で占領期に発行されていた総合雑誌『潮流』をめぐるものであった。この雑誌は、以前に住谷悦治研究の途上で存在を認識していて、またそこに収録されていた論説をいくつか目にしたことがあったが、田村先生の実証的な研究は、僕の予想を遥に上回る詳細で、また当時の時代背景(日本の戦後啓蒙の形)がわかるものであった。田村先生は日本のリトルマガジンの研究の先駆者としてしられていて、実は、最近、mixiの方で80年代前半のキャンパスマガジンというかミニコミをめぐってかの竹熊先生と意見交換をしたことがあったので、その点からも日本の小雑誌に対する僕の関心をいたく刺激した。

 経済思潮班としてどのような貢献ができるか、私案はあるが、時間が限られたなか、どれくらい頑張れるかわからない。しかし今回の先生方のご報告を聞いて、久しぶりに知的な興奮を覚えた次第である。

 最近、小野先生の「子供漫画新聞と漫画集団」を収録した第三巻がでた。これもまた非常に面白い。

占領期雑誌資料大系 大衆文化編〈3〉アメリカへの憧憬

占領期雑誌資料大系 大衆文化編〈3〉アメリカへの憧憬

『ユーロマンガ』二号とエンキ・ビラル

 異能のBD(フランスマンガ)の作家として日本でも知られる、エンキ・ビラルの新作『アニマルズ』が出た。最近、エンキ・ビラルの翻訳のある作品(『モンスターの眠り』、ニコ・ポル三部作)をまとめて読んだので、この新作の発売は嬉しい。いまもソ連邦の裏側を暗喩で描いたといわれる『狩猟』が届くのを待っているが、この『アニマルズ』も速攻で読んでみたい作品である。ユーロマンガのホームページhttp://www.euromanga.jp/news/404に作品の内容の紹介があるが、近未来のディストピアものみたいであり、期待が高まる。僕が彼の作品を読んでまっさきにイメージしたのが、バラードの初期の作品群であり、その意味でも今回の「水なき世界」の話は面白そうだ。ただひとつのハードルは、彼の作品のフランス語のレベルがかなり高そうで、僕のような初等クラスには結構つらいかもしれないことだけど 笑。ただマンガのいいところは、絵が雄弁に物語の大半を語っているところであり、昔、読めない漢字を適当にあてて『ガロ』を読んでいた小学校1年生のころを思い出す。


 さて第三号以下もどんどん出してもらいたいので、応援の意味で、ここで再び『ユーロマンガ』第二号の宣伝をしたいと思う。明日、全国で発売になるからだ。


 日本のマンガをいくら読んでも同じ世界観をぐるぐるまわるだけで少しも面白くないと思う。もしあなたが、日本のマンガの世界観はそんなに飽きてしまうほど単調ではない、と思うならばすでに十分、日本マンガの罠に嵌っている。僕は増田さんの本の書評を契機にして、アメリカンコミックの世界に足をいれ、そしていまはフランスマンガの世界を覗こうとしている。マンガとはいえ、異なる文化圏を知ることで、いままでのぐるぐるめぐりの生活を相対的にみることができるだけでも、世界のマンガを読むことは大きい意義があるんじゃないだろうか?

ユーロマンガ2号

ユーロマンガ2号

カプラン、映画版『ウォッチメン』を語る

 コミック大好きな経済学者の代表は、東のカプラン、西の田中(嘘)。といわれる異能の経済学者カプランが、Econlogで、映画『ウォッチメン』を熱く語っている。


http://econlog.econlib.org/archives/2009/03/watchmen_non-sp.html


 悪役の行動動機への考察だとか、功利主義への挑戦だとか、をこの映画から考察できるのかはさておき、映画版はもちろんまだ未見だが、原作は確かに面白い(よく覚えてないけど 笑)。いわゆる「おたく」仕様のおもしろさなんか全然わからなくても、僕は楽しめたなあ。


 映画の『ウォッチメン』については、町山さんが最新のエントリーで関連した話題を掲載しているで読まれたい。http://d.hatena.ne.jp/TomoMachi/20090307