新刊見本いただく

 3月10日には全国発売(早いところではその前の週末にはでてるかも)する予定の、拙著『雇用大崩壊ー失業率10%時代の到来』(NHK出版、生活人新書)の見本をいただく*1


 昨年の本当に末に語り下ろしたものに、つい最近までの議論を取り込んだもの。いま取り組んでいるネットカフェ難民論、そして福田徳三論と事実上の三部作のような感じで、ここしばらく熱中して取り組んでいるわけである。まあ、そのほかにもいろいろあって本当に大変になってきたわけですが。


 松尾匡さんに負ける?わけにはいかないので、頑張って仕事に励むことにしたいと思います。

*1:とりあえず説明しておきますが、「失業率10%」はいわゆる「真の失業率」の最悪パターン

日本銀行の政府紙幣への言い分

田村耕太郎参議院議員(自民)のブログより


政府紙幣議連に日銀登場
http://kotarotamura.net/b/blog/index.php?itemid=4132

政府紙幣に関して、以下の問題提起があった。

1・政府紙幣は通貨発行益の先食いに過ぎない
2・無利子永久国債を日銀に買いオペで買わせるのと同じ
3・量的緩和の効果はない

三番目の「量的緩和の効果がない」との指摘はいかがなものだろうか?当時の日銀の見解とことなるし、「それをいっちゃーおしめいよ」という感じがしますが・・・

その後、議員からの質問。その多くが「危機感が足りないのではないか?」「もっと頑張って量的緩和やリスク資産買取やってはいかが?」「欧米の中央銀行に比して対策の内容もスピードも劣るのでは」という趣旨のもの。ただ、非常に”美しく””建設的な”やりとりでした。日銀にプレッシャーをかけるというような雰囲気はありませんでした。

日銀側は

「日銀としては自己分析に基づき必要な措置は徹底してやっている」「FRBと比較されても日本は米国ほどひどい状況ではない」「それでも従来の施策と比べたら非常事態対策に匹敵するほどの奇策もとっている」

とやんわりと美しく反論。

その後、議員側から「できないことを押し付けても効果はないから、必要な措置で国ができうることは国がやればいい」との助け船も出ました。

最後に議員側から「これじゃあ政府紙幣やっちゃいましょう」との意見まで出て非常に盛り上がりました!

日銀さんは「政府紙幣にどうしても反対!」というニュアンスではなかったですね・・

 田村議員は存じ上げない方ですが、これからこの議連(いま「ギレン」にタイポしてワラタ)に注目するときは田村さんのブログを参照しましょう。なかなかユーモアがあるw。

 ところで日本銀行の意見ですが、

1は、そもそも政府紙幣は通貨発行益の利用なので、目前の危機を回避するために「先食い」大いに結構です。

2ですが、別に日銀を通す必要もないのでこの比喩自体が意味不明ですが、日銀通さないので結局1に問題は回帰しこれまたノープロブレム

3ですが、田村さんのいわれているように、それをいっちゃあおしまいですねw まったくどこまで人をバカにすればすむのかな 笑。

 あと深刻なのは、日本の方がアメリカよりもましとみていること。経済成長率の落込みをなんだと思っているのだろうか? 正直、その甘い認識の驚き

スーザン・ブラックモア『「意識」を語る」(山形浩生・守岡桜訳)

 別件で本屋によったらたまたま見つけた。ダニエル・デネットが登場していることが購入した大きな理由。ただし山形さんの長文の解説を先に読んでしまうと、本書を通読する根気はまず失せる 笑。


 つまり本書の最大の売りは、デネットでもなく、ましてや他の門外漢からはわけわからんこといっている(「ゾンビ直感」とか 笑)対談でもなく、まさに山形さんの解説。


 山形さんの本書の解説は、他の訳書中の解説(『ウンコな議論』、『自由は進化する』、『誘惑される意思』の最低3つ)を併読することで、より論点が明らかになるんじゃないかな。そうそう他には『服従の心理』をなぜ訳したのかとか。


 例えば、かっての新聞記事で論点となった自己責任論(ここ参照:http://cruel.org/asahi/be08.html)ともかかわっているように思えるし、そのときの山形さんの立場がより深く掘り下げられているようにも思える。ほかにもいろいろなところとつながってるのかもしれない。

「意識」を語る

「意識」を語る

原田泰・大和総研『世界経済同時危機ーグローバル不況の実態と行方』

 草稿段階から拝読させていただきましたが、岩田先生の『金融危機の経済学』、竹森俊平さんの『資本主義は嫌いですか?』、そしてアカロフ&シラーの『Animal Spirit』と並んで、いまのところ最も参考になる今般の世界経済危機関連の本といえます。書評を某誌に書く予定ですが、とりあえず簡単に内容を紹介します。

 よく世間に流布している「通説」−−世界経済同時危機の背景には、新興国や日本とかの過剰貯蓄を、米国が吸収したというグローバル・インバランスが、資金の流れの歪みを生み出した、という見解に対して、原田さんらは批判的です。要するにグローバル・インバランスは、世界経済同時危機の原因ではない、という立場ですね。


 原田さんたちの本では、危機の原因は、主に1)過大な金融緩和と急激な引締め、2)格付けのインセンティブが歪んでいたこと(=サブプライムローン証券のリスク管理の甘さ)、3)さらに規制が不適切だったこと(SIVの問題、自己資本比率規制の問題など)に求められています。


 その上で本書では、日本、新興国、アメリカ、ヨーロッパ諸国の世界経済同時危機前後の状況が、具体的なデータとともに詳細に検討されています。おそらく本書は今回の危機に関するかっこうのデーターベースの代わりになることでしょう。


 原田さんは今回の不況は、アメリカの景気次第であり、日本では円高回避のために緩和政策が重要である、としています。そして長期的な効率性をめざすことも重要であると。


 僕は、原田さんの主張も理解できますが、グレゴリー・マンキュー、ケネス・ロゴフやジョセフ・スティグリッツ先生ではないですが、「緩和的な政策でできることはなんでもする」ということと、そして「物価安定レジーム=ゼロ近傍の低いインフレ安定を短期で目指す」を放棄して、短期的にはやや高めのインフレ率をも許容するリフレーションが必要であると思っています。そうすれば円高回避を政策目標にすることもなく、またアメリカの景気の好悪からなるべく(まったく回避することは不可能ですが)遮断することが可能になるのではないか、と思っています。

世界経済同時危機―グローバル不況の実態と行方

世界経済同時危機―グローバル不況の実態と行方

河上肇忘れられてます

 掲示板みて微苦笑。まったく違う話題にかまけてなぜか(田中は)アンチ河上肇ならば、河上肇賞の選考委員も賞も辞退しろ、との名無しさんのへんな書き込みが。ちなみに僕は賞もとってないし、選考委員でもないんだよなあ。だから辞退できないのw ただ東京河上会(河上肇賞とは全然関係なし)の幹事なんだけど、これは切込隊長も入会しているほどのアンチ河上肇の面子もウェルカムな、河上肇の精神(批判精神とライバルへの寛容)をいかしたナイスな会なので、ぜ〜んぜんアンチ河上肇と東京河上会の幹事であることは矛盾せず 笑。


 河上肇読んでないとそういう妄想ぶちまける人がいるらしくちょっと心配。なにが心配かというと、河上肇が忘れられていて。ちなみに河上肇は、日本の代表的なフィッシャーリアンであり、ある意味でリフレーションの祖でもあったわけ(実際には貨幣数量説の紹介者程度だけど)。途中で立場変えたけどね。だから前期河上の業績にわりと好意的で(「わりと」が重要だけど)、後期河上(マルクス経済学者に完全転進した後)を否定的にみることも別に珍しいことじゃないんだよね。

もうなんといっていいやらお手上げ


 不幸にもまた目撃したあるブログでの話だが、原田さんたちの新刊『世界経済同時危機―グローバル不況の実態と行方』の内容が間違って紹介されていた。


 世界経済同時危機の背景には、新興国や日本とかの過剰貯蓄を、米国が吸収したというグローバル・インバランスの存在がある(とそのブログでは書いてあるが)、なんてことは原田さんの主張には基本的に関係ない。むしろグローバル・インバランスが危機の原因の説明としては正しくない、というのが原田さんの主張であり、まさにまったく正反対!


 原田さんたちの本では、危機の原因は、主に1)過大な金融緩和と急激な引締め、2)格付けのインセンティブが歪んでいたこと(=サブプライムローン証券のリスク管理の甘さ)、3)さらに規制が不適切だったこと(SIVの問題、自己資本比率規制の問題など)をとりあげている。「影」だかなんだかしらないが、そのブログのへんなレトリックの巻き添えにすべきではない。


 さらに日本が内需主導に転換するには云々の文脈に、公務員改革の話はまったく関係なし! それは長期的な効率化の話としてでてきたのであり、当面のこの不況への対応(つまり内需主導への転換)には直接関係ない。内需を増加させるのは、原田ら本では緩和政策。さらに本格的な回復にはアメリカの回復が必要である、というのが原田本の結論なのである。


 そして清算主義的な立場をとる人たちと、原田さんそして僕もそうだがの立場との開きはかな〜〜りあり、その対立こそ重要だと思う。


 ところでリフレ的な主張を、詐欺まがいのレトリックで「構造改革」として喧伝したのは、過去の小泉政権もそうだったが、(現実の政策状況がどうみてもリフレ 笑 なので従来の清算主義、構造改革主義などの立場ではもはや言いつくろえないほど)追い込まれた人たちのやる常套手段であり、最初からまともな論理じゃない。


 詳しくは、ある雑誌から原田さんたちの書評を依頼されているので、その草稿などの形でこのブログに掲載しますが。しかし問題なのは、僕は原田さんたちの本の書誌情報を知りたくて、ググるともうその誤解だらけのブログがヒットすること。つまり嫌でも間違いが目につく 苦笑。


 ところでもうひとつググったらでてきたのでつい見てしまったが 笑、『Animal Spirits』の内容紹介もまったく違う! むしろシラーやアカロフが批判していることを、その内容紹介では、彼らの主張として紹介している!!


 正直、お手上げである。

 
 できればぐぐるとでてこないようにしてもらいたい。ついつい本気にみせかけた冗談だと思って読んでしまうから 笑。


 ところで原田さんたちの本は、とても参考になるすぐれた危機の検証本である。必読であるのはいうまでもない。ちゃんとした書評も上で少し書いたがそのうちここにきちんとしたものを再録する予定である。