民主党公約見直しの件(朝日新聞から)

 今日の朝日読んで、う〜んとうなった。衆院選マニフェストづくりが停滞しているという記事。民主党埋蔵金をかなりあてこんでいるのは前々からわかっていたが、やはり11年度のプライマリーバランス黒字化を目標にしているわけか。この延長で、数日前の2年で景気回復するという小沢代表の発言が重なるわけだ。10年度までだからなぜか合う(苦笑)。つまり去年に「三年で景気回復」といっていた麻生首相と、年があけた分でいえばほぼ同じというわけで、まずはこのプライマリーバランス黒字化目標堅持ありきなわけね 笑。


 朝日の記事でも税収減が深刻で、さらに民主は消費税増税も封印。埋蔵金も年6.5兆円では実行可能性に疑問がつく、とかかれる始末。


 まあ、何度でも書くけれども、この11年度プライマリーバランス黒字化堅持という目標がなんで政権が交代しても堅持されるのかわけわかめである。そんなに財務省が好きなんだろうか? そもそも11年度のプライマリーバランス黒字化というのは、1)深刻な不況を背景にして築かれたものではない、2)プライマリーバランスの黒字化を優先する経済的根拠が乏しい、という二点で疑問である。


 そもそも政治が法律と財政の二本柱が中心であるとしたら、その肝心の柱のひとつが、いまの与党と同じであるならば政権交代の必要性さえも疑わしいと思う。


 で、もしもこの(根拠が疑わしい)プライマリーバランスの黒字化を堅持するならば、次のいずれか(あるいは併用もあり)がおきるのではないか?

 1)現実的路線と称して、昔の細川政権瓦解後、なぜか自社政権が継承したようにいまの麻生政権の消費税増税路線をも「堅持」することに転換…これが一番可能性がある。しかも小沢代表の交代というオプションとからめれば政治家マインドとしてはこの部分は変更しやすい。


 2)埋蔵金を積極活用するならば、景気対策の財源として「政府紙幣」を発行する。しかしこれには党内で根強い、金利上げ派を抑える必要があるが、これはどうなのか?


 3)アメリカ他が年内に異常に景気回復し、さらに来年の前半で何もしてないのにw日本経済が異常に盛り返す、という本当の意味での神風が起きる=政策は何もしない、の裏返しだが。


 4)3)と実は同じだが、「もうマイナスやゼロ成長があたりまえで、これの方がいいんだ」というキャンペーンを日本銀行と一緒にやりだす=清算主義的な試みの採用。円高の称揚。


 そんな感じかな。個人的な見解としては、民主がもし本当に政権をとること自体が目的ではなく、なんらかの政治的ミッションを果たしたいならば、法律と財政のうち、やはり財政のレジームぐらいはいまの与党と違うものにしないかぎりなんのための交代だかわけわかめ。しかも上に書いたように変更の合理的根拠は十分にありすぎる(つうか、なぜか財政再建派の財政学者たちがルーカス批判をこのプライマリーバランスの11年度堅持に適用してないのが露骨に「御用学者」である証しだが 爆)。


 プライマリーバランス11年度黒字化を放棄して、不況に見合った財政の膨張を許し、そしてなおかつ政府紙幣埋蔵金を財源にして年20兆円規模ぐらいの公共支出や減税を行うというのが*1、いいんじゃないかな。これ民主党だけでなく自民党公明党の与党にもいえることなんだと思うんですけどね。

(付記)なおプライマリーバランス11年度黒字化堅持への疑問は、(ルーカス批判以外 笑 は)このエントリーで書いたhttp://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20080825#p2。これは竹中平蔵氏の『闘う経済学』と“闘った”(笑)ときのものだが、その該当部分を下に引用しておきます。

 「第二章「増税論」と闘う」は興味深い。かって与謝野馨氏と竹中氏が名目成長率論争を行ったことは記憶に残っているだろう。このときの竹中氏の立場は本書によれば次の一文の象徴される。

プライマリーバランスを回復させれば、名目経済成長率が金利に等しいか、もしくは高くなれば、財政赤字GDP比率の発散を防ぐことができる」(72頁、本文はゴチック体)。

 しかし竹中氏がこの命題を出すために用いたドーマー条件によれば、

 財政赤字GDP比率は、

 名目経済成長率>金利 →有限値に収束

 名目経済成長率<金利 →無限に発散

であり、竹中氏の財政再建(=構造改革)のアルファでありオメガでもあるプライマリーバランスの黒字は、この収束・発散の議論に関係ない*1。詳しい解説は岩田規久男飯田泰之『ゼミナール経済政策入門』の341-342頁をご覧下さい。竹中氏のドーマー条件の説明は途中で議論を端折っているのに等しいでしょう。以下にドーマー条件とプライマリー・バランスについての岩田・飯田本からの引用を書いておきます(同様のことは拙著『経済論戦の読み方』にもあります)。

「なお、「ドーマーの条件」をめぐる議論は初期時点での公債残高、プライマリー・バランスの黒字・赤字とは関係しません。「ドーマー条件」さえ満されていれば、公債残高の名目GDP比は、プライマリー・バランスが黒字

の場合は近い将来低い水準で、プライマリー・バランスが赤字の場合には遠い将来に高水準で、収束します。一方、名目成長率が利子率を下回り「ドーマー条件」が満たされない場合には、プライマリー・バランスが黒字であっても公債残高の名目GDP比は発散します」

 というわけで、竹中氏のように、「プライマリーバランスを回復させれば」というプライマリー・バランス回復中心主義は、彼が利用しているドーマー条件からまったく正しくありません。このような誤ったプライマリーバランス論に基づいて、彼はとりあえずは与謝野路線よりは数段まともな成長率路線を唱えたのはなんと評価すべきか、言葉を失います。

あとルーカス批判については、この書評http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20070620#p5を参考。もっと勉強したければその書評対象の本を参考。

*1:本当はもっと多くてもいいけれどもどうせ日本の政治家は世襲も多く、みかけは若いイケメンでも中身は爺さん婆さんまるだしの保身的な連中ばかりでそんな冒険しないからw と本当のこと書いてみるテスト