米沢嘉博『戦後SFマンガ史』

 先月、マンガ史三部作を図書館で借りてきて読んだばかりですが、この文庫版はいい! なぜかというと表紙イラストももちろんいいけども、単行本よりも寝ながら読めるし、そもそも図書館から借りた本には線も引けなければ付箋も付けられないし、単行本の二段組にくらべるとこちらの方がすっきりした書体とも相まって読みやすさ激増。最近、復刊された『光る風』への記述部分をいま拾い出して読んでみましたが、著者の若書きぽい硬質の文章もなんだか単行本だと読むのつら〜と思いましたが、文庫だと古典ぽくみえる 笑。

 これで個人的には最も楽しめた『戦後ギャグマンガ史』だけが未文庫化ですが、いまから登場が楽しみになります。

戦後SFマンガ史 (ちくま文庫)

戦後SFマンガ史 (ちくま文庫)

 『光る風』も連載しいてたときに少し読んだんだけども、やはり不条理な物語進行はいいとして、子ども心にちょっと物語が短絡的だなあ、と当時思ってしまいました。今回、大人になってどうかなあ、と思いましたが、やはり三つ子の魂なんとかで(この形容この場合使っていいのか知らんけどもw)、呉智英氏ほど当時もいまもこの作品はあまりいただけない、というのが率直な感想です。同じ年(1970年)に発表された作品では、石川球太の「巨人獣」、桑田の『デスハンター』、小室の『ワースト』の方が好きでしたね。こういう同時代になにが出たかがわかるともろも米沢氏の本のいいところですねw。

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アラン・B・クルーガー『テロの経済学』

 藪下史郎先生の訳による注目作が出版されました。このブログでも何度かとり上げましたが、このクルーガーの本は経済学のできることが何なのか=経済学の意義と限界とはどこにあるのか、という問題を考える上でも非常に有益です。もちろん主題であるテロについてもその現状、原因、予防を考える上で示唆的です。

テロの経済学

テロの経済学

 この本に関連して拙著『不謹慎な経済学』でも序文において、以下のように触れていますのでご参照ください。

:クリューガーの疑問も同じだった。彼は国際機関で利用できる公的データやアンケートなどから、どうして人はテロリズムに走るのかを証明してみせようとした。そしてブッシュ政権を始めとしたて「テロとの戦争」派が中心になってしばしば主張するような考え方、例えば「戦争で負かした後にちゃんと民主的な教育を施せばテロはなくなる」、「戦後復興で経済的に豊かになればテロは終わる」といったものが本当に正しい意見なのかを検証しようともした。
 この「戦争で負かした後にちゃんと民主的な教育を施せばテロがなくなる」というのは、まさに弱肉強食・お金がすべて的経済学の「弱肉強食」での「競争力」のアップと同じ発想だ。また「戦後復興で経済が豊かになればテロが終わる」というのは、いうまでもなくお金がすべての問題を解決するという考えとまったく根っこが一緒だ。
 ところがクリューガーが見出した事実はこの解決策がまったく役立たないことだった。彼が調査した一つの事例では、テロを行う人はその人が属する社会の中で経済的に豊かであり、また教育水準も高いことが示されていた。例えばパレスチナ自爆テロリストの貧困率は13%だが、パレスチナ全体の方が33%で遥かに“貧しい”、そして自爆テロリストの57%が高卒より高い教育だが、パレスチナ全体では15%にすぎない。日本でも過去の記憶に遡ればオウム事件での犯人たちがきわめて高い学歴や裕福な家庭に育ったものが多いのに驚いたことがあっただろう。それとまったく同じことをクリューガーはパレスチナだけではなく世界的なテロの調査からかなり確度の高い証拠として提供したのだ。:

不謹慎な経済学 (講談社BIZ)

不謹慎な経済学 (講談社BIZ)

 またテロの経済学関連としては、その資金源の問題と現代の国際金融の関わりから以下が面白いです。

テロマネーを封鎖せよ

テロマネーを封鎖せよ

 さらに戦争や地域的紛争、武器市場、テロリズムなど包括的な議論を初歩レベルの経済学から学べるのは以下の『戦争の経済学』がいいでしょう。

戦争の経済学

戦争の経済学

 また貧困な地域が直面する「紛争の罠」については以下の本が理解を深めます。こうみてくるとテロの経済学関連の書籍が翻訳でもかなり増えています。

最底辺の10億人

最底辺の10億人