山崎元氏から学ぶⅡ


 Ⅰはどこに書いたか忘れました。笑。『エコノミスト』の今週号の山崎元さんのマネー講座を読みました。株式の分割買いは合理的ではない、分割して買うのは「事前後悔回避効果」である。むしろ資産の最適な配分をするように株式購入者にはアドバイスすべし。というのが趣旨でしょうか。立ち読みですのでうろ覚えです。


 前回は効率市場仮説もどきで評論をお書きになりまして、今回は「事前後悔回避効果」という今が旬の経済心理学ぽい話題を持ち出されまして、王道の書き方は効率市場仮説の援用、変化球でアノマリーな現象を説明する「効果」を使うと、ここらへんがマネー評論の基本形でしょうか。さっそく修行させていただきましょう。ただこれ素朴な疑問なんですが、資金の一部で株を購入し、あとは現金保有もその時点においては別段不合理ではないように思えました。ただこのコーナーはまったく自分では資産運用をしない臆病すぎる一大学教員のマネー評論を目指してますので、書き手の書き方のノウハウだけお勉強させていただきたいと思います。お勉強の果てに何が見えるかは謎


 次回はマネー評論の大御所橘玲氏から書き方のお勉強をしたいと思います。

 日銀流金融政策の能力と割当への疑問:日本銀行総裁記者会見感想

 21日の日本銀行総裁の記者会見を読みました。新聞報道などで注目されているのはやはり以下の論点でしょうか。


仮に低金利が経済・物価情勢と離れて長く継続するという期待が定着するような場合には、行き過ぎた金融・経済活動を通じて資金の流れや資源配分に歪みが生じ、息の長い成長が阻害される可能性があると判断されます

 低金利の長期期待が、①資金の流れの歪み、②資源配分の歪み をもたらし長期的な成長を阻害する、という観点です。②の論点を先に考えると日本銀行は金融政策による低金利の長期期待の実現が、その影響の良し悪しを除外すれば、長期的な成長に影響を与えると考えているところは注意点だと思います。これはかなり理論的には興味深いところです。率直にいうと長期的な流動性の罠論にとっては逆手に使えるけれども、(長期的な流動性の罠には陥っていないと日本銀行が考えている)経済状況で金融政策が長期的な資源配分に影響を与えるという前人未到の領域に頭を突っ込んでいるといえるか。分かりやすくいうと構造改革を金融政策で担うべきだし、それを理由に利上げを今回実行したと解釈できてしまうのではないか。


 さらに①の点ですが、記者との以下のやりとりがありました。

(問) 冒頭の説明の2つの柱の後半部分で、資金の流れについて述べています
が、このまま低金利が続くと歪みが生じる、これをもう少し具体的に国民にわか
りやすく説明されたほうがよろしいかと思います。資金の歪みというのは、どのような弊害なのでしょうか。
(答) なかなか具体的にこれだという言い方は難しいです。それを言いますとかえって誤解を生むようなところがあり、非常に難しいところです。先日のG7でも、やはり市場の中であまりにも偏った、あるいは行き過ぎたポジションを市場関係者が持つようになると、それが巻き戻される時のリスクが大きくなる。そして、そのリスクは単に市場の中に留まらないで、各国の実体経済に響くようなリスクになりかねない、そういった意味合いのことがコミュニケにも盛られておりますし、広く議論されました。日本の場合にも同じことが言え、仮に低金利が経済・物価情勢とあまりに離れて長く続くと、そのような期待感が定着し、金融機関や企業などの経済主体がそうした期待を前提として行動してしまう。その結果、金融資本市場において行き過ぎたポジションが構築されます。金融資本市場ですから、どこの市場となかなか前もって言えません。株式市場か債券市場か為替市場か、色々な市場を指しているわけですが、いずれにせよ偏ったポジションが構築され、その巻き戻しのリスクは決して小さくないということです。そしてより広く見れば、効率的な経済活動に資金が回るというよりは、非効率な経済活動に資金が回って資源が使われる、長い目でみて資源配分に歪みが生じます。私どもが意識していることは、物価安定のもとでの息の長い成長であり、政府の長期的な政策との関係で言えば、人口減少のもとでも潜在成長能力を上げていくことであり、日本銀行もその政策を支持しています。この政策の効果を実現する最大のポイントは、常に資源配分が適正だということです。要するに、資金や資源がわき道に逸れないで、そういった将来の成長軌道をきちんと築いていく、そして振幅の少ない経済成長を掌中に収めていく、このために一番大事なことは絶えず資源配分に歪みが生じないということです。いくら述べても抽象的に聞こえて申し訳ないですが、それ以上具体的に言うのはむしろ弊害があるということです。
(問) あえて質問させて頂きますが、いわゆる円キャリー・トレードのような話は、念頭におありでしょうか。
(答) この点も誤解のないように申し上げなければならないと思います。金融政策はどこを中心に見据えて運営するか、これはやはり経済・物価情勢を丹念に点検しながら、物価安定のもとでの持続的な成長の実現、つまり国内の経済・物価情勢に中心的な視点を据えながら運営していくということです。しかし、お話のような円キャリー・トレード等によって、為替相場を含め金融資本市場の動きの中に非常に偏った動きがありますと、いずれ将来の経済・物価情勢そのものに悪影響を及ぼしてくる可能性があります。そうした観点からはそれらは十分考慮に入れなければならない要因だと考えており、円キャリー・トレードを真正面に据えてモグラたたきをするという性格のものではないところに、なかなか難しさがあります。


 1月期と経済情勢の判断で日本銀行流の「フォワードルッキング」な政策判断に関わる客観的な材料の変化は記者会見でも上記の一文を抜かせばほとんどない。バックワード的なデータであるGDP速報値があったり、(昨日書いて人名ミスで削除しましたが)政治的な圧力がない、といった現在の日銀の公式見解では考慮されていないはずの要因の変化しかないであろう(この要因の変化がたぶん決め手だろうが)。その意味ではこの①を明確にすべきだと思うが、上記の赤字で強調したようにまったく曖昧である。さらに①の論点にも②の経済学の常識では考えられない長期的な資源配分の是正に金融政策が積極的にコミットしている点(つまり今回の利上げが長期的な経済成長に寄与するという判断)が絡んでいることで、まさに前人未到の見解であるといえるのではないか。


 なお実質デフレの状況だと判断している僕らとは異なり、日銀は現状の失業率を総需要の不足によるものとは考えておらず、その意味での②の資源配分の歪みの候補では通常はない(しかしどうも②の論点で金融政策で構造的問題も是正できると考えていると解釈できるからこれさえも言い切ることはできないが)。そうなると何が資源配分の歪み(その関連での資金の流れの歪み)の真犯人なのだろうか? 


 総裁の弁のように具体的にいうと誤解を招くという論点が問題なのではなく、そもそも非効率的な投資を民間部門が行っているのかどうか判定することを日銀はできるのだろうか(能力の問題)、さらに判定できてもそれを金融政策でコントロールすることが正しいのだろうか(割当問題)、といういくつかの疑問が浮かぶ。日本銀行構造改革がその職務ではない、というのがノーマルな話なのだが速水前総裁時のときと表現は洗練されてても同じことを口実にして金融政策の変更を行っているようにしか思えない*1。実際には政治的圧力が不在だったことに乗じた金利をあげるために上げたという日銀の組織防衛と解釈されてもしょうがないのではないだろうか。


 円キャリトレードについては後で書きます。それと昨日消失したものも再度書きます。
 

*1:今回のような構造的問題が政策変更の理由になるならばおそらく都合のいい理由がすべて採用される可能性さえある