消費増税後の経済政策対応:金融緩和と財政政策の組み合わせがベスト

経済は生物のようなもので、生物が直面する環境に応じて、その生物の活動をよくするも悪くするのも政策次第である。なによりも今の環境がどうなっているかの判断が重要だ。

日本経済の置かれている現時点の環境は以下のエントリーに書いたように、ふたつの点と補足する一つの点で黄色信号から赤信号に移りつつある。

消費増税の悪影響が生産、消費、そして雇用に出始めている(財務省、経団連の補正予算反対という暴挙) - Economics Lovers Live 田中秀臣のブログ

1)消費増税以前からの景気後退局面入り

2)消費増税による経済の落ち込み

補)台風の影響

 

である。補)は一時的なもので限定的だ。しかし1)と2)は長期間続くと思われる。消費増税ハルマゲドン的なものはないと予想されるが(それも国際環境に大きく依存する)、再びデフレ停滞に陥るリスクが高い。

 

この時、真水10兆円規模の補正予算に合わせて、日本銀行イールドカーブコントロールよりも量にターゲットをおいた政策で追加緩和を表明すれば、これはかなり効果があることは間違いない。財政が一時的なものでも金融政策と組み合わせることで恒常的な効果をもつことができる。

 

あと補正予算にも一部入るといわれてるような防災インフラ関係は、これは常々指摘しているが、国土強靭省みたいなものをつくることで市場は財政政策の効果が恒常的なものだと理解することができる。もちろん防災ファンドでもいい。要するに期待をコントロールする枠組みを構築することが重要である。

 

防災投資的な話題を、若田部昌澄日銀副総裁が講演している。こちらは日銀・金融庁などの金融インフラの危機管理的側面についてのもので、リスクが顕現していないときは地味な話題に思われるかもしれないが、とても重要な話題だ。

【発言要旨】若田部副総裁「社会インフラとしての金融・決済システム:災害時対応の視点から」(名古屋市立大学大学院主催シンポジウム) : 日本銀行 Bank of Japan

 

 

BSフジ「蝶野正洋経済ブレーンバスター」第二回放送に出演しました

この番組は、日本の最前線の経済動向を主に企業レベルから紹介し、解説していくものです。蝶野正洋さんを中心に、MCの中川祐子さん、解説の田中秀臣でお送りしたものの第二回の放送がありました。今回は、オフィス革命を題材にして、最先端のオフィスを経済空間の効率的な利用、人々の仕事のしやすさと幸福度の高まり、などを切り口にお送りしました。スタジオには、TKP代表取締役の河野貴輝さんもお招きして楽しく対談形式でも番組を進行しました。個人的にこの番組は勉強になることが多いですね。

 

きわめて残念なのは、中川さんが今回で出演を終わるとのことで、かなりがっくりきてます。なので個人的にトークイベントなどでまたご一緒できないか画策したいと思っています。

 

では第三回以降もお楽しみに。僕もまた出演したら頑張りたいと思います。

 

三人の決めポーズ

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消費増税の悪影響が生産、消費、そして雇用に出始めている(財務省、経団連の補正予算反対という暴挙)

論説やメディアでの発言で繰り返し、消費増税が最悪のタイミング(世界経済の減速と景気下降局面)で行われること、消費増税対策の効果はあるが限定的であること、世界経済の情勢に依存するが急激な「消費増税ハルマゲドン」的なものはなく、むしろ徐々に経済が低迷し再停滞突入のリスクが高いことを指摘してきました。

 

12月目前になってきて、生産、消費、雇用で、消費増税の悪影響を伝えるニュースを目にするようになってきました。上に書いたような傾向が鮮明になってきつつあります。

 

鉱工業生産指数の速報値が10月は2016年以来の落ち込み

10月の鉱工業生産指数 台風19号の影響などで大幅に低下 | NHKニュース

政府やマスコミも台風の影響を指摘していて、消費増税の影響はなく、やがて生産は回復するとしています。本当にそうなるのかこれは注目です。実際に災害の影響が回復すれば記事にあるように生産はみかけ回復しますが、その後の基調はやはり増税などの影響をみないとなんともいえないでしょう。ましてや生産が予測通りに回復しなければ増税の影響は甚大だという証拠にもなりますので、同指数の動きには注目したいと思います。他の指数ももちろん。

 

小売業の売り上げは大幅減少。こちらは確実に消費増税の影響は出ているでしょうね。前回の消費増税引上げよりも大きく減少しています。台風の影響を指摘していますが、台風で逆に消費が伸びる可能性もあったのでそれだけで説明するのは困難でしょう。仮に台風の影響が消費減速に影響したとしても落ちこみの度合いはそれだけで説明するのはかなり困難ですね。

先月の小売業販売額 大きく落ち込み | NHKニュース

 

ポイント還元などが関係ない大手デパートの売り上げは大幅に落ち込んでいて、今回の消費増税の悪影響をストレートに理解する上で、デパートの人たちは大変でしょうけど、「絶好のサンプル」に残念ながらなっています。

消費増税1か月 デパート売り上げは大幅減 | NHKニュース

 

そして雇用についても、前回の増税アベノミクス初年度の改善スピードを停滞させたのですが、今回は停滞ではなく、「悪化」する可能性も出てきています。その予兆か?

www.nikkei.com

 

政府は補正予算の準備をしていますが、財務省やまたその代理人でしかない経団連補正予算に反対しています。前者はあいかわらずですが、後者はいったい自分たちの顧客る国民をなんと考えているのでしょうか? 経団連は解散すべき最悪の既得権団体ですね。

 

 

 

文化放送「おはよう寺ちゃん活動中」11月26日火曜コメンテーター出演:国際機関を利用した増税のごり押し、在職年金制度見直しなど

本日のおはよう寺ちゃん、お聴きいただきありがとうございました!

今日のメインは在職年金制度とIMF専務理事の消費増税提言への批判についてが中心でした。財務省的な発想を国際機関や「国際公約」などを利用するのが、政治家や財務省増税手法です。まあ、それに連動する財務省の下請けマスコミも実になさけないですが。

来週もよろしくお願いします!

 

本日のニュース解説メニュー
○牛肉、対中輸出再開へ
○年金減額基準 65歳以上据え置き
○GSOMIA「韓国抗議に謝罪」否定
ローマ教皇 拉致問題早期解決支持
IMF専務理事「2030年までに消費税15%」

 

今週の放送は以下から聴けます。
http://radiko.jp/#!/ts/QRR/20191126060000
また生放送はラジオの他、radikoでも聴けます
http://radiko.jp/#!/live/QRR

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柿埜真吾『ミルトン・フリードマンの日本経済論』(PHP新書)

ミルトン・フリードマンといえばマルクス経済学や反経済学の色彩の強い日本の論壇や経済学者の世界では忌み嫌われている経済学者の代表である。しかし米国では、フリードマンの考えに反対の人でもその主張の明晰さを評価する声は大きい。この日本の閉鎖的な言論空間の中で、フリードマンの積極的評価を提起したことをまず大きく評価したい。そしてなによりもフリードマンの提言「貨幣は重要である」に集約されるその主張が、日本の長期停滞の解法になることはさらに意義深いことである。

 

帯文の「金融緩和の下で減税せよ」はその意味で、いまの日本経済をフリードマン的観点からみるときに最適の提言となる。

 

柿埜氏は、岩田規久男前日銀副総裁・学習院大学名誉教授やリフレ派といわれる人たちの薫陶を十分にうけてきただけあり、本書は実に読みやすく明晰な文章で書かれている。経済学の基礎知識がなくても戦後のアメリカ、日本の経済が現代まですらりと展望できるし、またその中での経済学の歩みもフリードマンというフィルターを通じて知ることができる。

 

もともとフリードマンは日本への関心が深く、かっては二カ月ほど長期滞在をしたこともある。また80年代は日本の経済学者や財界人などと論争的なシンポジウムにも参加してそれは書籍にもなっている。日本のデフレ停滞にも関心が深く、本書でも詳細に書かれているが中原伸之元日銀政策審議委員(バーナンキの中原さん以外は当時の日銀幹部はクズ=ジャンクだ、という名言は懐かしい)との交流、中原さんへの具体的なデフレ脱却へのアドバイス、また最後までたびたび日本へ政策提言をしたことは、日本人として感謝をしたいほどである。フリードマンの提言を十分に活用はできていない側面もあるが、とりあえずアベノミクスの金融政策はフリードマンの主張(中央銀行の政策の失敗を正すこと)をベースにしているともいえる。

 

本書は新たなリフレ派の誕生ともいえる書でもある。かって私は安達誠司さんや片岡剛士さんがデビューしたときにおふたりに「麒麟児」であると称賛のことばを送った。また上念司さんと再会したときには、これでリフレは内実(政策の具現化)を伴う道を得たと確信した。その意味では柿埜氏の登場は、静かである。だが、彼の書き言葉には力がある。この書く力をぜひ孤独を恐れず、論壇に活かしていただければ本当に嬉しい。ぜひこのブログを読まれているみなさんが彼の道を応援されることを切に願っています(ちょっとは僕も応援してくださいw)。

 

個人的に本書を読んで、膝を打った点を書く。これは僕だけの完全なメモであるw。具体的な詳細はぜひ各自が読まれたい。

 

1 フリードマンが雇用の流動性を重視して、徴兵制に反対し、それの撤廃に力あったこと

 

2 フリードマンが世間一般の金融政策「だけ」を重視しているのではなく、いい意味での実践家でもあり、状況によって財政と金融を積極的にやる人だということ。師のヘンリー・サイモンズ由来。この点はこのブログでも何度か触れた。

 

3 小宮隆太郎氏が実はマネタリスト(あるいはリフレ主義者)ではなく、むしろ「反」マネタリストともいえる立場で、例の1970年代のインフレ論争から一貫していること。この指摘は僕もしていて、いままで支持者がほとんどいなかったのでとてもうれしい。

 

4 竹森俊平氏ら中途半端なリフレ主義にも容赦ない批判的保留をしていること。

 

5 日本は「流動性の罠」などではなく、金融政策は工夫次第ではいろんなことがいまだにやれることを示したこと

 

などである。ひとつだけ僕と違うのは、中国に対する考えが甘いように思えた。中国にはいまこそ徹底的な批判精神こそが重要であり、それは経済も安全保障も表裏一体であることを忘れてはいけないことである。その点だけは柿埜氏は経済と安保を別々に考えていて、僕には不十分に思えた。ただしこれは本書で大きな話題ではない。

 

いずれにせよ、本書を読むことで、現代日本に求められている政策を知ることができるだろう。ぜひこの新たな可能性を読んで頂きたい。

 

 

ミルトン・フリードマンの日本経済論 (PHP新書)

ミルトン・フリードマンの日本経済論 (PHP新書)

 

 

TBSテレビ「あさチャン!」で『アナと雪の女王2』についてコメント出演(11月22日)

一大ブームを引き起こした『アナと雪の女王』の続編が公開されました。前作のときの『週刊現代』などでコメントしましたが、今回はテレビでコメントしました。

 

やはり楽曲のよさ、観客が幅広い世代で女性中心にけん引していったこと、異なる価値観を受け入れる世界観の広さ、観客参加型イベントの工夫、などを指摘しました。

 

また前作では本来の自分に目覚め、個性の強さを打ち出していく女性像が反響を呼んだ一因でしたが、ディズニー映画はその路線を時にはパロディも交えながら強く推進しています。また他方で、ディズニー映画以外でも『ワンダーウーマン』の大成功のように、女性主役の英雄映画の変化もこの数年みられた現象でした。

 

ここらへんを話しましたが、放送されたのはやはりはじめの楽曲の強さと幅広い観客層への訴求でした。もしご覧いただいた方がいればお礼申しあげます。

 

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アナと雪の女王 (字幕版)

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